新型コロナウイルス禍の中で社会保険料の納付を猶予してもらってきた中小企業が今、倒産の危機に瀕している。背景には、年金事務所による滞納金の取り立て強化がある。年金事務所に資産を差し押さえられた中小企業の資金繰りが破綻する、「社保倒産」が日本経済の爆弾となりつつある実態について、取材を基に克明に描く。(フリージャーナリスト 赤石晋一郎)
「破産しろってことか…」
迫られる社会保険料の返済
「これ以上の猶予はできません。もし期限内に払えないのなら、銀行から借りてでも払ってください」
年金事務所のフロアに冷ややかな声が響き渡った。事務的に説明を続ける職員、その目線の先にはA社の財務担当者X氏がいた。
(それって破産しろってことか……)
X氏は天を仰いだ。年金事務所では経営に関わるセンシティブな話であっても個室は用意されない。全ては平場で行われることが常だ。職員は紋切り型の説明を言うばかり。机の上には彼が徹夜して作成したA社の再建計画書が無造作に散乱していた――。
新型コロナウイルス禍からの経済立て直しのため、政府は潤沢な財政出動や公的なバックアップによる融資(ゼロゼロ融資など)を続けて経済活動を下支えしてきた。これから多くの企業がゼロゼロ融資等の返済期限を迎えるという中で、資金繰りに行き詰まり倒産する企業が増えていくのではないかとの予測もある。だが、実際にはより危険なリスクとしてささやかれ続けてきた爆弾がある。それが「社保倒産」という問題だ。
社保倒産とは何か?
前述のA社のケースからその実態を見ていこう。