「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】老化の原因に大きく影響する細胞とは?Photo: Adobe Stock

老化の原因は、老化細胞による「炎症」だった

 従来の老化に対する捉え方は、メタボなどが原因で高血圧や糖尿病などになり、動脈硬化が進み、老化していくというのが、一般的なイメージだったと思います。

 ただし、老化で問題になるのは、フレイル(要介護の予備軍)や認知症だけではありません。今後、国民の2人に1人がかかると言われるがんも、老化の重要な問題なのです。

 では、なぜ、老化するとがんになるのでしょうか? 

 遺伝子にかかわる研究も進んでいますが、最近の研究では、老化細胞が注目されるようになりました。ちょっと話が専門的になりますが、説明させてください。

 老化に伴って、少しずつ体の中で炎症を起こすのは、老化細胞が分泌する「SASP(細胞老化随伴分泌形質)因子」と呼ばれるものが原因だと言われています。

 細胞のDNA(デオキシリボ核酸:遺伝子の本体)が損傷を受けると、異常な細胞が増えないようにするため、アポトーシスという反応で細胞自らが死滅していくようになります。

 しかし、これらの反応が起こらずに、老化細胞が長く生き残ってしまうと、免疫系などに影響を与える炎症性サイトカインなどの分泌因子が体内に放出されることが、最近、明らかになりました。

 これがSASP因子です。

 この因子は、損傷した組織を修復する機能も持っていますが、長く残っていると、がんを促進させることがわかってきたのです。

 炎症が起きると、インスリン抵抗性といって、インスリンの効果が弱くなって、糖代謝が悪化します。

 では、実際に、糖尿病や炎症は、発がんとどうかかわっているのでしょうか? 

糖尿病と炎症が、がんの発生とかかわっている

 大規模な疫学調査の多目的コホートによれば、10万人の調査をしたところ、糖尿病の人が、がんにかかる危険性は、男性で1.27倍。女性で1.21倍という結果が出ています。

 この数値は糖尿病にかかった場合、通常の人よりも20%から30%ほど、「がんになりやすい」ということを意味します。

 糖尿病は、HbA1cという平均の血糖値を反映する指標で管理しますが、HbA1cが高い人たちは、がんのリスクは全部のがんにおいて1.28~1.43倍上昇していました。

 糖尿病の人は、インスリンの効きが悪くなって、インスリンの分泌が増えます。インスリンの分泌は「血中C-ペプチド」の測定でもわかります。

 血中C-ペプチドが高い人たちは、がんのリスクは全部のがんにおいて1.2倍くらい上がることがわかりました。また、大腸がん、肝臓がん、腎細胞がんなどのリスクも高くなることがわかりました。

 さらに、多目的コホートにおいて、3万4000人を対象にした15~16年の追跡調査で、炎症の度合いを示すマーカーである血中CRP(C-リアクティブ・プロテイン)濃度の上昇が、がんの罹患リスク上昇と関連することがわかっています。血中CRPは、全身で起こっている炎症の度合いを鋭敏に反映します。

 血中CRP濃度が上昇するにつれて、がん全体の罹患リスクは1.28倍高くなりました。がんの部位別に行った解析では、大腸がん、肺がん、乳がん、胆道がん、腎がん、白血病において、血中CRP濃度が上昇するにつれて、罹患リスクは高くなったのです。

 糖尿病と炎症、老化による発がんは、密接にかかわっていることが明確になってきました。

 つまり、老化細胞を増やさないように、適正な糖質量をとって、炎症を起こさないようにすることが、がんの予防につながるのです。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。