今回放出する処理水は、自然界で人間が受ける
年間放射線量の10万分の1未満のものを薄めたもの

――処理水の海洋放出を巡っては、周辺国から懸念の声が上がっている。政府としてどう対処するのか。

 2011年の東日本大震災の発災以来、私は粘り強く周辺諸国へ福島県産の食品が安全であることを伝え続けた。台湾の桃園県以外の全地域の県知事を回って、「放射能の心配はありませんから、ぜひとも農林水産物を輸入してください」と直接お願いしてきた。それこそ、歩く広告塔となるべく、「原発の処理水は安全だ」とわかる資料を背広のポケットに入れて持ち歩くようにしている。ちょっと紙がボロボロになってしまっているが、いつでも取り出して説明を続けている。

 印象的だったのは、蔡英文台湾総裁だ。前任の馬英九氏の任期では、一切、福島県産品を受け入れてもらえなかったが、蔡英文総裁が就任して、条件(放射能の検査証明)付きで輸入をしてもらえるようになった。香港も一部では同様に認められた。輸入に消極的なのは、韓国だ。

 トリチウムは自然界にも存在しており、通常の原発稼働の際にも排出されるものだ。今回放出される処理水による放射線影響は、自然界で人間が1年間に受ける放射線量2.1ミリシーベルトの10万分の1未満でしかないレベルに薄めたものだ。健康への影響はない。

 周辺国からの懸念があることを承知しているが、ただ、例えば、韓国の月城(ウォルソン)原発では、一年間に液体で31兆ベクレルのトリチウムを海洋や河川等に放出している。対して、福島第一原発が発災前に液体で排出したトリチウムは2.2兆ベクレルと比較するとごく少量だ。

――発災前の福島第一原発のおよそ15倍もの、トリチウムが排出されているのですね。

 台湾は、福島県産の食品について、条件付きで輸入することを認めているが、残念ながら韓国へはいまだにできない状態だ。少し韓国は感情論になってしまっているかもしれない。徴用工問題解決の糸口が見えてきたことで、日韓の友好的ムードが醸成されつつあり、今後、粘り強く働きかけていきたい。韓国とは、処理水だけではなく、ウクライナ問題、北朝鮮問題などで手を携えていかなければならないはずだ。

――福島第一原発の処理水は、いつ海洋放出されるのでしょうか。

 本年1月の関係閣僚会議において、本年春から夏ごろを見込むとしているが、政府として具体的にいつ放出するかを明かすことは現時点ではない。

――政府高官が、3月3日、私に対して、「春までに(パイプラインなど)海洋放出のための施設面での準備が整うことになる。もはや処理水を貯蔵するスペースに余裕はなく、梅雨明けには、処理水の海洋放出が行われる」と言明しました。

……決まっていることは、海洋放出をするために必要なパイプラインは、今春には完成する見込みである一方、秋頃には処理水を貯蔵するタンクがいっぱいになってしまうと言われていることから考えても、その間のどこかで、放出することになる。貯蔵する余力がない以上、スケジュールに余裕はまったくない。