写真:岸田文雄首相自民党「宏池会」の研修会であいさつする岸田文雄首相(同党総裁、22年9月撮影) Photo:JIJI

岸田政権の支持率低迷が回復の兆しを見せない。岸田文雄首相が率いる派閥「宏池会」の面々は、トップを支えるどころか、「政治とカネ」問題や失言、不祥事で足を引っ張る体たらくだ。(イトモス研究所所長 小倉健一)

異次元の少子化対策の「予算倍増」発言で
国民を愚弄する議論のすり替え

 岸田文雄首相は念頭の記者会見で、「今年は『癸卯』(みずのとう)だ。新たな挑戦をする1年にしたい」として、異次元の少子化対策に挑戦すると宣言した。

「癸卯」とは、60年に一度巡ってくる干支の組み合わせだが、60年前の「癸卯」は1963年で、当時の首相は岸田首相の所属派閥「宏池会」の創始者である池田勇人氏だった。池田元首相は、岸田首相と同じく広島県を地元にしていた。

 池田元首相は、所得倍増計画を掲げた。「癸卯」の1963年に衆議院を解散し、総選挙を実施している。その池田元首相を強く意識しての「癸卯」発言だったのであろうが、岸田政権の支持率は低空飛行を続け、掲げた政策は次々と雲散霧消の憂き目にあっている。

 最も象徴的な例は「異次元の少子化対策」であろう。2月15日の衆院予算委員会で岸田首相は、子育て予算などを含む「家族関係社会支出」の国内総生産(GDP)比について「それをさらに倍増しようではないかと申し上げている」と発言した。岸田首相によると、2020年度に2%を実現した。額にしておよそ10.7兆円だ。倍の4%にするなら、10兆円以上をさらに積み増す必要がある。

 財源の当てが「増税」以外にないことが予想されていたが、増税してまで子育て予算を積み増すことを国民が望んでいないことが世論調査で浮き彫りになるや、同じく宏池会所属で、首相を政権で支える木原誠二官房副長官が失笑を買う軌道修正を図ることになった。「子ども予算は子どもが増えればそれに応じて増える。出生率が本当に上がってくれば、割と早い段階で倍増が実現する」と、木原氏は2月21日のBS日テレの番組で発言した。

 子どもを増やすための予算であったはずが、子どもが増えれば予算が増えるという、何とも国民を愚弄(ぐろう)した話にすり替えられていた。そもそも、少子化対策を巡っては、世界中の国々で対応に苦慮していて、「これをやれば出生率が上がる」というような有効な政策は存在していない。

 最近、オンラインニュースなどで「子どもを4人産むと所得税が免除」「ローンの返済免除」などの「異次元の少子化支援」をしていると評判のハンガリーだが、出生率は1.56と、ご近所のチェコ(1.71)と比較して、大きく見劣りしている。日本の出生率が低いのは「晩婚化と未婚化」が主な原因であり、子育て支援にどれほどの意味があるのかは、研究者を中心に大きな疑問の声が上がっているところである。