岸田文雄首相Photo:Kevin Dietsch/gettyimages

内閣支持率が急落しても、岸田文雄首相に動じる様子はない。その泰然自若とした姿は、支持率低下が必ずしも政権交代に直結しなかった「中選挙区制時代」の宰相に通じている。防衛増税のように「不人気だが必要」といえる政策を打ち出せる胆力は、古いタイプの政治家ならではの強みだ。一方で、その「古さ」は、息子を首相秘書官に登用して批判を買う、同性婚を巡る答弁で“炎上”するといった弱点にも通じている。そんな岸田氏率いる政権は、これからどこへ向かうのか。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

内閣支持率が急落でも
岸田首相は動じず

 岸田文雄政権の支持率低迷が続いている。各種世論調査における支持率は20~30%台に落ち込み、不支持率が50~60%を超えたとする調査もある。

 岸田政権は2021年10月末の衆議院議員総選挙、22年7月の参議院議員選挙に連勝し、盤石な政権運営を行う流れができたはずだった。

 ところが、参院選投票日直前に起きた安倍晋三元首相暗殺事件をきっかけに、その流れは逆転。さまざまな問題が発覚し、岸田政権の支持率の低迷が始まった。不祥事の代表例はもちろん、旧統一教会と政治の関係が露呈したことである(本連載第312回)。

 教団との関係が発覚したほか、「政治とカネ」の問題や失言なども重なり、22年秋には閣僚が次々と辞任した(第318回)。

 苦境にある中、岸田首相は「防衛増税」を打ち出した(第320回)。相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」を保有するほか、23~27年度の5年間で防衛費を総額43兆円(現行計画の約1.5倍)に増やし、その財源を確保するための増税を行う施策である。

 この増税の財源には、安定財源でありながら国民の反発を買う消費税を含まず、国民の理解を比較的得やすい「法人」「所得」「たばこ」の3税を充てた。増税の実施時期は早い段階ではなく「24年以降の適切な時期」とした。

 国民に歩み寄りながら「防衛増税」を打ち出すという難しいかじ取りに挑んだ岸田政権だが、その支持率は落ち続けている。昨今はウクライナ戦争の影響などによる世界的なインフレが進み、国民は物価高騰に苦しんでいる。「増税を理解せよ」と説いても賛同を得るのは難しいのだろう。

 しかし岸田首相は、支持率低下に動揺しているようには見えない。それはなぜだろうか。

 筆者は岸田首相の言動や考え方をウオッチする中で、一つの答えにたどり着いた。それは、政治家としての「価値観や感覚の古さ」を持っていることである。