孤独・孤立担当大臣が任命されるほど昨今は人々の孤立や孤独、それにかかるメンタルヘルスが重要視されている。臨床心理士の筆者が考えるメンタルヘルスの本質と解決策とは。本稿は、東畑開人著『聞く技術 聞いてもらう技術』(ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです。
メンタルヘルスの本質は
孤立しない「つながり」
なぜいま、担当大臣が必要なほどに、孤立が政治的・社会的な問題になっているのでしょうか?
大きな文脈としては、この20年で深刻化した新自由主義が社会をあまりにバラバラにしてしまい、個人に負荷がかかりすぎているということがあると思います。国が対策を行う五大疾患に精神疾患が入っているように、誰もが心を病むリスクにさらされていて、メンタルヘルスが深刻な社会問題になっています。
メンタルヘルスの本質って、結局のところ「つながり」なんですね。脳の研究がすさまじく進み、心の仕組みについて膨大な論文が書かれているわけですが、なんだかんだ言って、善きつながりをもてることが心の健康には不可欠だというシンプルな現実があります。
孤立は健康に悪い。たとえば、虐待は養育者が孤立したときに起こってしまうし、依存症の背景には人ではなく、アルコールや薬物にしか頼れないという孤立があります。
うつだって、脳の調子の問題と思われていて、それもたしかにそうなのだけど、やはりそれだけではなく、孤立の中で生じるさまざまなストレスが大きな原因となっています。
グリンカーという文化人類学者が『誰も正常ではない』という本でおもしろい話を書いています。アメリカのある先住民では、落ち込みや悲しみを部族の仲間と分かち合ってるかぎりは正常なプロセスと捉えられ、気持ちを人に話せなくなり、一人で抱えるようになると病気と捉えられるそうです。
心は人々の間を回遊してるのが自然で、個人に閉じ込められると病気になる。それが人間の本質なのでしょう。そういう意味では、個人主義が徹底される現代は心にとって不自然な状態だと言えます。
ですから、心の治療とは、基本的につながりを回復することです。
うつの治療は薬を飲んで脳の調子を整えることだと思われていますが、本当のところもっとも重要なのは「休養」です。そして、「休養」を可能にするのは周囲とのつながりです。本当に一人ぼっちのとき、心も体も休むことができないんですね。
たとえば、会社を休んで、布団の中にいたとしても、「みんなに迷惑をかけている」「きっとダメなやつだと思われている」って頭の中に雑音が響いていたら、「休養」になりませんよね。
家族の理解や、職場の理解、そういうものに支えられてはじめて、僕らはようやく休むことができる。