発達障害がキャラ化して「バブル状態」の異様、裏に日本人の“承認依存”文化「急増する芸能人の発達障害のカミングアウトは“承認欲求”のせい?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

承認欲求は、社会にさまざまな影響を及ぼしている。そしてそれは、発達障害ブームや陰謀論の蔓延にも通じているという。

本稿は、斎藤環著『「自傷的自己愛」の精神分析』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「発達障害」がキャラ化し
「病気語り」がコンテンツに

 キャラが重視されることと相関するかのように、現代の日本は一種の「発達障害ブーム」と言って良い様相を呈しています。私の知人の小児科の教授は、この状況を的確に「発達障害バブル」と表現しています。

 最近では多くの著名人がアスペルガー障害やADHDをカミングアウトするようになりました。そのすべてが厳密な診断に基づいているとは限りませんが、一見社会適応できている人や成功しているような人たちも、実は「発達障害」を抱えていた、というナラティブは、ある種の定番として定着した感があります。同様に「ギフテッド」もしくは「サバン」のように、通常の生活能力に著しく欠けた人にも別の特異な才能がある、というナラティブも定番化しました。

 才能に恵まれたイメージが広がったことで、発達障害への承認は得られやすくなり、当事者もカミングアウトしやすくなるとともに、病気語りが「承認」を集める有効なコンテンツとして機能するようになっていったのです。

 発達障害の近年の急増ぶりは、とりわけ日本で突出しています。かつて「広汎性発達障害」と呼ばれた障害の有病率は、日本では約2%とされていますが、これは欧米の調査結果のほぼ2倍以上です。文科省が2012年に発表した調査報告では、公立の小中学校に通う普通学級の児童生徒で発達障害の可能性のある子どもが実に6.5%に上るとされています。

 発達障害は先天的な脳の機能障害ですから、日本で突出して多いというのは奇妙なことです。個人的な経験から述べれば、専門医、非専門医を問わず、「発達障害」の診断で紹介されてきた患者の誤診率はきわめて高いという印象です。専門医でもない私が「誤診」と断定できるのは、彼らが「治って」しまうからです。繰り返しますが発達障害は「先天性の脳の機能障害」で、「治療」や「治癒」という表現は適切ではないとされます。奇妙な話ですが、治ってしまったものは誤診、と言わざるをえないのです。

 ASD(自閉症スペクトラム障害)の診断で重視されるのは、以下の3つの障害です。

1 社会性の障害
2 コミュニケーションの障害
3 想像力の障害

 3はややわかりにくいのですが、これは「ごっこ遊び」や「見立て遊び」が不得手で、独特のこだわりやそれに基づく奇妙な行動がみられる、といった症状を指しています。私は、こうした発達障害バブルともいうべき日本固有の現象の背景に、「コミュ力偏重主義」があると考えています。