ベゾスやマスクが社会性は低いのに成功した理由、注目の発達障害「グレーゾーン」Photo:Theo Wargo/gettyimages

発達障害という言葉が広く知られるようになり、自分もそうかもしれないと医療機関を訪れる人が増えている。そんな中で急増しているのが、徴候はあっても診断はおりない「グレーゾーン」。障害未満でありながら、ときに障害を抱えた人より深刻な困難になりやすいとされるが、時代の寵児であるジェフ・ベゾスやイーロン・マスクにもその気があったといわれる。彼らの抱えていた生きづらさについて、岡田尊司『発達障害「グレーゾーン」その正しい理解と克服法』より一部抜粋・編集し紹介する。

ものごとを図式化し分析する
“知覚統合”が強い人たち

 世のなかには、知覚統合が突出して強いタイプの人がいる。

 知覚統合は、ものごとを図式化し分析する能力や、状況を判断し、変化や未来を予測し、損害を避け、有利な選択をする能力でもあり、また、ものごとを客観的に達観して、冷静な判断をする能力にも通じている。数学や物理の能力のベースにある能力だが、哲学者や文学者にも、意外に優れた知覚統合が推測される人もいる。

 イギリスの作家で、『息子と恋人』などの傑作を遺したD・H・ロレンスは、貧しい労働者階級の出身だったため、奨学金をもらってハイスクールに進んだが、彼がそこで優秀賞をとったのは、国語(英語)ではなく数学だった。ロレンスの文章は、細密な絵画のような自然描写でも卓越していたが、その優れた描写力は、彼のイメージする力と無縁ではないだろう。

 作家の安部公房は、中学高校時代、数学が得意科目で、ドストエフスキーを愛読するとともに、高木貞治の『解析概論』を読み耽っていたという。安部は、フッサールの現象学にも傾倒し、彼の文学の手法の根底には現象学の考え方があった。東大医学部に進むも、医者にならず、文学者の道を選んだのは、彼の関心が、生身の人間よりも、もっと抽象的な概念やその土台にある構造にあったからだろうか。

 もっとも、数学が苦手な文学者や作家のほうが、もっとたくさんいるのは言うまでもない。

 優れた知覚統合は、客観化や図式化の能力によって、複雑な現実の状況を前にしても、冷静に最適解を導き出し、賢く対処することを助ける。

 ただ、知覚統合が優れている人も、いいことばかりというわけにはいかない。知覚統合が高い人は、客観視の力によって、些細なことや感情的なことで悩まない傾向はあるのだが、何ごとも行きすぎると弊害が生じる。

 客観視ばかりで、共感やコミットメント(関与)が不足して、いかにも他人ごとという冷ややかな態度が見え見えだったり、分析して説明してくれるものの、自分のことは自分でやってという突き放した姿勢で、優しさが欠けていたりするのだ。

 知覚統合は、パターンや規則性を見つけ出して推理したり、新しいものを構成したりする能力にかかわる。地図を読むといったことも、単に視覚的な認知の能力というよりは、視覚情報が表している意味を読みとる能力だと言える。

 さらには、ものごとの根底にある構造を見抜き、その構造から世界を理解し、目の前の見えない現象を推測することを可能にする。つまり、現象をその根底にあるシステムから理解する能力だとも言える。

 自閉症研究の世界的な第一人者の一人であるバロン=コーエンは、人間の脳には、共感(empathy)を得意とするEタイプと、システム(system)思考を得意とするSタイプがあり、自閉症は極端なSタイプで、共感が極度に苦手であると考えた。

 コーエンによると、ルールや同一性へのこだわりも、システムで考えるのを好み、同じ規則を求めようとするためだということになる。

 システム思考を好み、ものごとを一つのルールや法則で理解したがる傾向は、グレーゾーンから健常レベルの人に至るまで、Sタイプに属する人たちの重要な特徴と言えるだろう。

Sタイプのジェフ・ベゾスが
祖母を泣かせた言葉

 アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスは、いまや世界一のビリオネアだが、その生い立ちは、波乱に富んだものだった。

 じつの父親はサーカスの団員で、一輪車乗りを得意技としていた。高校時代の後輩で、まだ16歳だった女性とつき合う仲になり、妊娠して生まれたのがベゾスだった。

 しかし、父親の仕事は不安定で、二人とも家庭をもつには若すぎたと言える。結局、2年で離婚し、母親は別の男性と再婚。ジェフはその男性の養子として育てられることになる。養父となった男性はキューバからの政治難民だったが、奨学金とアルバイトで大学も出て、大手の石油会社に勤めはじめていた。一方、じつの父親との連絡はその後途絶えてしまう。

 何かに熱中するとほかのことが目に入らなくなる傾向は、幼稚園児だったころから顕著だったようだ。

 公園の池に浮かんだ足こぎのボートに乗ったときも、ほかの子は母親に手を振っていたのに、ベゾスは、ボートが動く仕組みを知ろうと、そちらに夢中で、母親のほうなど一顧だにしなかった。何かをやり出すと、やめさせて次のことに切り換えさせるのが至難の業で、仕方なく幼稚園の先生は、椅子ごと彼を移動させていたという。

 そんな彼は、宇宙飛行士と発明家になることを夢見るメカ好きの少年に育っていく。

 ジェフ少年は、あるとき祖母を泣かせてしまったことがあった。喫煙による死亡率の上昇に警鐘を鳴らす公共広告を見ていたジェフは、自分で計算して、喫煙している祖母の寿命が9年短くなるという答えを導き出し、それを祖母に告げたのだ。祖母は泣き出したが、無理もなかった。祖母は肺ガンにかかってもう何年も闘病中だったのだ。

 彼の計算結果は正しかったかもしれないが、それが祖母を傷つけることには、彼は無頓着だった。ジェフ少年の悪意のない失言に対して、祖父は孫を優しくたしなめたという。「ジェフ。賢くあるよりも優しくあるほうが難しいと、いつかわかる日が来るよ」と。

 高校では科学部とチェス部に籍を置き、さまざまな賞を獲得した。負けず嫌いなベゾスは、卒業生総代になるために首席の成績を修めると公言していたが、その通り実行した。プリンストン大学に進むと、電気工学とコンピュータサイエンスで学位を取得。そして、彼が卒業後に就職先として選んだのは、株式投資の世界だった。数学とコンピュータを駆使する金融工学の手法でウォールストリートを席巻する先駆けとなった投資会社で、ベゾスは頭角を現していく。

 こうしたベゾスの経歴には、彼のシステムへのこだわりと嗜好が感じられる。プログラムに従って、コンピュータが自動的に取引を行っていく手法は、情緒的な関与を一切排して、定められたルールに従って淡々と取引を行うというものだった。

 ベゾスのある部下は、彼の思考や行動が、極めて論理的で、「どのようなことでも体系的に(システマティックに)対処する」という特徴があることを指摘している。ベゾスは女性との出会いにさえ、「ウーマンフロー」(投資案件と出会う機会を表すディールフローに対して、女性との出会いの機会をそう呼んだ)を増やすという方法を実践していたという。

 こうしたエピソードからも、システムでものごとを考え、制御しようとするSタイプの思考がはっきり見てとれると言えるだろう。

1日10時間読書に没頭した
イーロン・マスクの幼少期

 ベゾスと並んで、驚異的な成功を成し遂げてきた時代の寵児に、イーロン・マスクがいる。電気自動車で世界をリードするテスラ社のみならず、夢物語と思われていた民間での宇宙事業に突破口を開いたスペースX社を創立し、一大企業に育て上げた型破りの人物だ。

 歴史に匹敵する人物を探すとすれば、アレクサンダー大王やチンギス・ハンをもち出すしかないかもしれない。2人の英雄の事業は、軍事的な征服によるものだったが、マスクは、科学技術と経営力によって、誰も成し得なかったような事業を成し遂げようとしている。こうした偉業を可能にしたのは、いかなる情熱と能力だったのだろうか。

 イーロン・マスクは南アフリカ共和国の首都プレトリアで生まれた。父親は電気や機械のエンジニア、母親は栄養士だったが、学校時代には理科や数学が得意な、いわゆるリケジョだった。両親ともに理系の能力に恵まれていたということになる。