世界に多大な影響を与え、長年に渡って今なお読み継がれている古典的名著。そこには、現代の悩みや疑問にも通ずる、普遍的な答えが記されている。しかし、そのなかには非常に難解で、読破する前に挫折してしまうようなものも多い。そんな読者におすすめなのが『読破できない難解な本がわかる本』。難解な名著のエッセンスをわかりやすく解説されていると好評のロングセラーだ。本連載では、本書の内容から「名著の読み解き方」をお伝えしていく。

読破できない難解な本がわかる本Photo: Adobe Stock

歳をとることは悪いことではない?

 だれでも歳をとることはうれしくはありませんが、なんとローマ時代に、老境について考えた政治家・哲学者がいました。

 それは、世界史の教科書にも登場することで有名なキケロです。

 キケロはストア派の立場から、人が哲学をしっかり学びつつ、理性的に生きれば、一生のいかなる時期も憂いなく生きることができると説いています。

 ですから、日常生活を理性的に生きることは大切ですし、老衰の時期にも用意をととのえて、「高齢者になった」という事実を受け入れる心構えが必要とされます。

 キケロは、現代の私たちと同じく、「一般的に老境は望ましくないものとされている」と認めています。

「世の中の人は、老境に入ると楽しみがなくなるだの、他人から相手にされなくなるだのと恐れている」わけです。けれども、キケロによると、まったく心配はいらないそうです。

 まず、老人は高度な仕事ができると説かれています。

 世間では、「老人は若者のする仕事ができないという誤解」が広まっている。仕事で大切なのは「肉体の活力・機動性ではなく、思慮・貫禄・見識である」。「老境になるとそれが増大してくるのだから、若者にはまねできない仕事ができるのである」(同書)

 これは少子高齢化の現代に、大きな助言となることでしょう。

 さらに、老境に入ると肉体がよわってくると世の人は言いますが、熱意と活動とが持続しているかぎり老人は健康体の維持が可能だとされます。

「知力も増して、覚えも減ずることはない。むしろ、多くの知識が新しい言葉の連結に一役買ってくれるものだ」とされます。

「老人は嫌われるのではないかという不安を持つ必要もない。老人たちは、嫌われるどころか好かれていると言うべきである。若者も老人たちの様々な教えを楽しみにしているのだ。知識を錬磨し、精神の訓練に汗を流していれば肉体的力の欠乏を覚えることはない。絶えず仕事をしている人は老境が忍び寄るのも気がつかないものだ」(同書)

老境はよいことだらけだ

 さらにキケロは、老境のよいところを強調しています。

 老境ではほとんど欲情がなくなる。若いときには欲情して、思考を妨害されたり、道徳的に反する有害な行為に流されがち。

 しかし、老境はこれを自然に遠ざけてくれる。よって、肉欲と野望から離れた老境は、好学をもってよろこばしい生活をおくることができるわけです。

「適度な食事、談話の楽しみもあるし、自然にかこまれて晩年をすごすことほど幸福なものはない」とされます。

 キケロの時代でも、老人たちは、「気みじかで、苦労性で、憤りやすく片意地だ」と言われることがあったそうです。

 これもいつの時代も変わらないことなのかもしれません。

 しかし、キケロは、「気みじかで、苦労性で、憤りやすく片意地をはる人間」は、若者にもみられるし、逆に、気長で温厚な老人がたくさんいるとバッサリ断じています。

 老境の最大の問題は「死」ですが、これもキケロはユニークな主張をしています。

「死はすべての年齢にとって共通なものであり、青年も同じ状況にある」。人間いつ死ぬかわからない。そんな心配をしてもしょうがないというのです。

「人は、等しく、いつ死ぬのかわからないものじゃ」と、まるで近所のオヤジが語っているような親近感があります。だからゆったりと生活すればよい。

「死」そのことが問題なわけではなく、人生が満ち足りていたかどうかが問題だと説かれています。ローマ時代の究極のポジティブ・シンキングと言えるでしょう。

人生で役に立つこと
大昔の哲学者は、アンチエイジングどころか、歳をとることを楽しんでいた。すべてを理性的に考えれば、若いも歳をとるも同じこと。それぞれにいいところも悪いところもある。いいところに焦点をあてよう!