幸福は進化的合理性からしか得られない

 神は無限の資源をもっているのだから、選択する必要がない。やりたいと思うことを、なんでもすることができる。

 資源が有限だからこそ、わたしたちは選択しなくてはならない。これを「トレードオフ」という。

 トレードオフとは、資源の制約があるために、好ましい結果のすべては実現できないことだ(「あちら立てればこちらが立たない」)。

 リンゴとミカンがいずれも100円で、財布に100円玉が1個しかないとしよう。このとき、100円という資源制約があることで、「リンゴとミカンを両方食べたい」という欲望を満たすことができない。すなわち、リンゴかミカンのいずれかを選択しなければならない。

 この単純な例からわかるように、選択というのは有限な資源(この場合は100円)を適切に配分し、(リンゴかミカンを選んで)トレードオフを解消することだ。

 わたしたちの人生は、ありとあらゆるトレードオフから構成されている

 解決できる問題は、すでに解決されてしまっている。だとしたら残された問題は、なんらかの制約があるために単純な解決が不可能なもの、すなわちトレードオフだけだ。

 意思決定には、「短期的な最適化」と「長期的な最適化」がある。テーブルの上にある美味しそうなケーキを頬張るのが短期的最適化で、ダイエットや健康のために我慢するのが長期的最適化だ。

 短期的な最適化の特徴は幸福度が高いことで、脳の報酬系が刺激されて大きな快感を得られる。それに対して長期的な最適化は面白みがなく、「冷たい」「血が通っていない」などといわれることもあるが、将来的には幸福度(効用)がもっとも大きくなる。

 短期的な最適化は「進化的合理性」、長期的な最適化は「論理的合理性」と言い換えることもできる。わたしたちはつねに、この2つの合理性のあいだで引き裂かれている。そして多くの場合、幸福度が高い方(進化的合理性)を選んでしまうが、現実には、幸福度が低い方(論理的合理性)を選択することでより大きな利益を手にできることが多い。

「合理的な選択」とは、さまざまな認知の歪みに惑わされることなく(進化的合理性を排除して)論理的合理性を一貫させることだとされる。これはもちろん間違いではないが、人間の本性を無視している。幸福感は進化的合理性からしか得られないのだ。

 選択とは「有限な資源の配分問題」で、意思決定の目的は、「短期的にも長期的にも幸福度(効用)が最大化するような資源の最適配分を達成すること」だ。しかしこの目標は、そもそも矛盾しているので簡単には実現できない。当たり前の話だが、「なにかを得るためには、なにかをあきらめなくてはならない」のだ。

橘玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。