国税専門官として10年ほど相続税の税務調査に携わり、富裕層の相続対策の実態をつぶさに見てきた『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)の著者・小林義崇氏と、30年以上世界の一流金融機関で投資に携わってきた『お金以前』(日経BP)の著者・土屋剛俊氏が、今年2月に発表されて話題となった政府の「税制改正大綱」を踏まえつつ、相続・贈与税対策について専門家の視点から語り合った。その特別対談の模様を4回にわたりお送りする。(構成/堀 容優子 撮影/稲垣純也)
生前贈与の効力を減らす
税制改正が大きな話題に
【前回】からの続き
土屋剛俊(以下、土屋) 相続税対策として、年間110万円の基礎控除を利用して、生前贈与をする方法がよく知られていますよね。
小林義崇(以下、小林) 「年間110万円までの生前贈与は非課税」というルールがあるので、それを使って親から子へと財産を渡していく手法です。生前贈与をしておくと、相続税の課税対象からも外れるので、富裕層を中心によく使われてきました相続税対策です。
ただし、亡くなる3年前までの贈与に関しては、相続税に取り込まれて相続財産としてカウントされる仕組みでした。これを「相続税の持ち戻し」というのですが、2023年度の税制改正大綱で、これまで3年だった相続税への加算期間が、7年に延長されることが決まり、大きな話題となりました。
3年から7年への延長で
相続税対策はどうなる?
土屋 それは大きな変更点ですね。たとえば父親が(結果として)亡くなる10年前から、妻と子ども2人という法定相続人3人に年間110万円ずつ贈与をしたとすると、現行のルールだとトータル3300万円の贈与のうち、課税対象となるのは3年分の990万円です。
今回の改正で、持ち戻し期間が7年に延長されることになったということは、課税対象となる金額は「年間1人110万円×法定相続人3人」の7年間分となる2310万円になってしまうということですか?
小林 改正後は、緩和措置として相続開始前4~7年の間に行われた贈与については合計100万円までは課税対象にしないルールが設けられます。ですから、課税対象になるのは2310万円ではなく2210万円になりますね。
土屋 なるほど。それでも改正前より不利になったのは確かですね。
小林 はい。基本的には、亡くなる7年前より、さらに以前から対策しないと非課税のメリットがなくなるわけですから。誰しも自分が亡くなる7年前なんて予想できませんから、できるだけ早めに対策をしないと間に合いません。
富裕層の方々は早くから対策することに慣れているので、この改正にも対応していくでしょうが、一般家庭の方々が対策を考え出すのは、多くの場合、親御さんが亡くなりそうになってからでしょう。
すると7年前どころか、現行ルールの3年前にも、適用されなくなってしまいます。
土屋 これも「知らないと損をする」ことの1つですよね。
贈与税が高いのは
“相続税逃れ”対策
小林 生前贈与の持ち戻しが7年に延長されるという噂は以前からありました。そもそも、贈与税の税率は高いので要注意なんです。
なぜ税率が高いかというと、生前贈与をして相続対策されてしまうと、“相続税逃れ”ができてしまうからです。その対策として贈与税を高い税率にしたわけですが、抜け道的に110万円の「基礎控除」というルールが存在しているわけです。
土屋 国が増税しやすいところから取っているというのが、よくわかる改正ともいえますね。消費税の増税も年金カットも、一般の人から反発されるのが目に見えています。でも相続税や贈与税なら「お金持ちから取るってことでしょ? それならいいよ」と国民のコンセンサスが得やすいということなのでしょう。【次回に続く】
※本稿は、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)と『お金以前』(日経BP)の著者による特別対談です。