池上彰が解説、韓国vs北朝鮮「スパイの暗躍」が冷戦構造の裏に写真はイメージです Photo:PIXTA

1991年までの冷戦期も、それ以降も、インテリジェンス分野において米国とロシア、MI6(秘密情報部)を擁する英国が目立っていることは言うまでもありません。今回は、日本に身近な韓国・北朝鮮のインテリジェンス機関と攻防について紹介します。

※本稿は、池上 彰『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。

互いに諜報戦、政治工作、情報戦を繰り広げる韓国・北朝鮮

 今回は、朝鮮半島の二つの国、韓国と北朝鮮について見ていきましょう。第二次世界大戦後の朝鮮半島は南北で分断され、1950年からは朝鮮戦争を戦い、休戦から70年たとうという現在も終戦に至っていない状況にあります。民主主義を採用しながらも、当初は事実上の軍事独裁政権だった韓国と、社会主義を基礎としながらも、社会主義では考えられない世襲でリーダーを決めてきた北朝鮮は、冷戦期はもちろん、現在も冷戦構造そのままの西側対東側の対立を続けています。

 そして両国は「朝鮮半島における国家として正統性があるのは我が国である」として、お互いの国を正式な国家とは認めていません。また、北朝鮮は韓国にスパイを送り込み、韓国は「北よりもうちの方が豊かでよい国になった」と宣伝するなど、互いに諜報戦、政治工作、情報戦を繰り広げてきました。

 韓国では1961年に、軍人だった朴正煕(パクチョンヒ)がクーデターを起こし、政権を取ると、KCIA(韓国中央情報部)というインテリジェンス機関を設置します。本部の所在地から「南山(ナムサン)」とも呼ばれたKCIAは、国内で強力な捜査権、逮捕権を持っており、国内に入り込んだ北朝鮮工作員の摘発や、北朝鮮に感化されたとみなされた反政府派などを徹底的に取り締まりました。

 朴正煕の死後、1981年には国家安全企画部と改称され、さらに1999年には大幅に権限を縮小した国家情報院に改称され、今に至ります。

 対する北朝鮮は、朝鮮労働党中央委員会の下に統一戦線部というインテリジェンス機関を持っており、海外にいる朝鮮人同胞や韓国で北朝鮮に融和的な左派勢力への働きかけを行っている、と見られています。日本には在日朝鮮人の組織である朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会の略称)があります。ここには北朝鮮本国の統一戦線部からの指示や指令が届いています。また軍にも情報工作を行っている部署がありますが、全貌は明らかではありません。しかしどの情報機関も、主に「対南工作」、つまり韓国に対する工作を中心に諜報活動を行っています。