職場で困っている人を見かけても、「おせっかいだったらどうしよう…」と躊躇したり、「たぶん大丈夫だろう…!」と自分に言い訳したり……。
気づかいをするときには、つい「心の壁」が現れてしまい、なかなか一歩が踏み出せないことが、あなたにもあるのではないでしょうか?
この連載では、「顧客ロイヤルティ(お客さまとの信頼関係づくり)」をベースに、ビジネスセミナーへの登壇やコミュニケーションスキルの研修講師を通して、全国200社・2万人以上のビジネスパーソンに向けて教えてきた『気づかいの壁』の著者、川原礼子さんが、「気がつくだけの人」で終わらず、「気がきく人」に変われる、とっておきのコツをご紹介します。
優秀な人は「ダメなところ」が見えてしまう
ある企業のリーダーから、「メンバーの服装を褒めたら『それ、セクハラですよ〜』とつっこまれました。褒めるって難しいです……」と、相談されたことがあります。
せっかく自分の心の壁を乗り越えたのに、こんな思いをしたら、次から声をかけるのに躊躇しますよね。
「アドラー心理学」でいう「勇気づけ」とは、「さまざまな対人関係における困難を克服する活力を与えること」を意味します。
アドラー心理学では、「褒める」より「勇気づけ」をすすめます。
その勇気づけの手法の1つが「よい出し」です。相手の「よいな」と思った行動を指摘します。
もしかすると、私たちには、「ダメ出し」のほうがおなじみかもしれません。
たとえば、1週間前に部下が作成したプレゼン資料があるとします。
根拠となるデータも念入りに調べ、伝えたいこともわかりやすく絞り込み、想定問答の準備も整えているようでした。そして当日を迎えたところ、取引先の反応もよいのですが、話を聞いていると、エビデンスの部分の話が長く感じたとします。
そのとき、あなたは、「エビデンスの解説、長すぎだよ」と、一言いいたくなるかもしれません。
これは、仕事ができる人ほど、後輩や部下の「できていないところ」が見えすぎてしまうから起こってしまうことです。
本当は「いいところ」がたくさんあるのに、「ダメなところ」に目がいってしまうのです。
褒めすぎると、素直に喜べないもの
そこで、意識的に「いいところ」に注目するようにしてほしい。そのために、「ダメ出し」ではなく「よい出し」を覚えておいてください。
「いいところなんて見つからない」と言うような人は、人より著しく優れているところを見つけようとしてしまっています。
そうではなく、「できている行動」や「以前はできなかったけれど、できるようになった行動」を言葉にするのです。
先ほどのプレゼン資料の場合だと、
「あのデータ、効いていたね」「質問への回答が的確だったよ」
と、できていた行動について触れればOKです。
当たり前のことですが、思っていても、口に出さないと伝わりません。
そうやって言われたことは、「次も頑張ろう」という行動につながるはずです。
ただ、こう言うと、ついやりすぎてしまう人がいます。
よい出しを超えて、「褒めちぎり」になる人です。
「さすがです! 完璧! すごい!」
「〇〇さんなら、絶対できると思っていたよ!」
と、大げさに持ち上げられると、「褒めようとしている」ということが伝わって、素直に喜べません。
それはまさに、相手の領土を荒らす行為です。お互いが疲れるような気づかいは、する必要がありません。
当たり前にできている「よい行動」を言葉にする。これだけでいいのです。
株式会社シーストーリーズ 代表取締役。
元・株式会社リクルートCS推進室教育チームリーダー。
高校卒業後、カリフォルニア州College of Marinに留学。その後、米国で永住権を取得し、カリフォルニア州バークレー・コンコードで寿司店の女将を8年経験。
2005年、株式会社リクルート入社。CS推進室でクレーム対応を中心に電話・メール対応、責任者対応を経験後、教育チームリーダーを歴任。年間100回を超える社員研修および取引先向けの研修・セミナー登壇を経験後独立。株式会社シーストーリーズ(C-Stories)を設立し、クチコミとご紹介だけで情報サービス会社・旅行会社などと年間契約を結ぶほか、食品会社・教育サービス会社・IT企業・旅館など、多業種にわたるリピーター企業を中心に“関係性構築”を目的とした顧客コミュニケーション指導およびリーダー・社内トレーナーの育成に従事。コンサルタント・講師として活動中。『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)が初の著書となる。