「賃上げ」で明るい兆しは本当か?
まったく実感がないという人も多いだろうが、実は今、世間では「賃上げラッシュ」らしい。
岸田政権の「賃上げしましょう」の呼びかけにこぞって、企業が応えているというわけだ。しかも、注目すべきは、この賃上げの動きは、物価上昇を価格転嫁しにくい中小企業にまで「波及」をしているという点だ。
『中小企業の約6割が賃上げ予定 物価上昇率カバー可能な「4%以上」賃上げは18.7%に 日本商工会議所(TBS NEWS DIG)』
このような話を聞くと、「いいぞ!これで“安いニッポン”からおさらばだ」「日本中で賃上げと物価高の好循環が生まれて不況から脱出するぞ!」なんて感じで、新年度から明るい希望を抱いたという人も多いだろう。
そういういいムードにケチをつけるようで大変心苦しいのだが、今騒がれているような「賃上げラッシュ」では、日本の低賃金は解決できないだろう。
実はこのようなニュースで語られているトヨタやファーストリテイリングという世界的企業や、産業別労働組合があるような大企業というのは、日本の全企業の中でわずか0.3%に過ぎない。全就業者数でも3割程度だ。
こんなほんの一握りの企業が給料を爆上げしたところで、日本人全体の給料が上がるわけがない。3割の労働者の給料がちょっと増えたところで、7割が低賃金のままでは経済の好循環もへったくれもないのだ。
「これだから学のない人間は困る。わずか0.3%でも大企業が賃金を上げれば下請けや取引先である中小企業に波及するだろうが。実際に、中小企業の6割は賃上げ予定だぞ」というお叱りを受けそうだが、実はこの話もかなり微妙だ。
実は上場企業など大企業は、これまでも着々と賃上げをしている。が、日本の平均年収はこの30年間ほぼ横ばいだ。つまり、大企業が賃上げをすれば、「シャワー効果」で、中小企業も賃金が上がるというのは、「神話」に過ぎない。
また、「中小企業の6割が賃上げ予定」という調査自体が眉唾だ。これは日本商工会議所の会員である3308社の回答に基づいているのだが、これが日本の中小企業の実態をあまり反映していない恐れがあるからだ。