おどけたビジネスマン写真はイメージです Photo:PIXTA

行動心理学者のジェニファー・アーカー氏によると、真面目な仕事ぶりと遊び心のバランスが取れているチームほどパフォーマンスが向上し、リスクの高い場面を乗り越える力を持つという。いちかばちかの状況をユーモアで乗り切ったテクニックを、ジェニファー・アーカー『ユーモアは最強の武器である:スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』(東洋経済新報社)から一部抜粋・編集してご紹介する。

ばかばかしさに気づかせる

 世界屈指のある巨大企業を担当するシニア経営コンサルタントのジョン・ヘンリーは、クライアント企業の上級幹部や取締役会に対し、多様なポートフォリオのアドバイスを行っている。彼は、組織内の力関係が仕事の生産性の妨げとなっているのは、どこの企業でも同じだと認識しているが、そんな話題を切り出そうものなら、クライアントの機嫌を損ねるだけだ。

 そこでヘンリーは、中央情報局(CIA)の「シンプル・サボタージュ・フィールド・マニュアル」を虎の巻としている。アメリカ政府関係者が考案した、テロ組織を内側から破壊するためのマニュアルだ。もともと第二次世界大戦中に戦略事務局(OSS)が開発したこのマニュアルは、CIAいわく「業務を円滑に進行させない方法を教える」ためのガイドだった。

 ではアメリカきっての優秀な情報部員たちが、テロ組織の運営や効率性を妨げるために考案した戦略の実例を紹介しよう。ターゲットとして、典型的なアメリカ企業の役員会議を想定してもいい。

1. 委員会では「さらなる調査および検討」のためとして、可能なかぎりあらゆる事項に言及する。委員会はできるだけ人数を増やし、5人以下にならないようにする。
2. 演説をぶつ。できるだけ頻繁に長々としゃべること。「要点」を語る際には、長大なエピソードや個人的な体験を織り交ぜる。
3. やりとりや議事録、決議の文言を決めるに当たっては、的確な文言をめぐって細部まできっちりと詰めていく。
4. 本題とは関係のない話題をできるだけ多くもち出す。
5. 前回の会議で決まったことを蒸し返し、決議の妥当性についてあらためて問い直す。

 ジョン・ヘンリーが顧問として重要なクライアント企業の役員会議に同席し、CIA推奨の妨害工作を遂行し、役員たちが図らずも加担させられている様子を想像してみよう。すでに決まったことを再検討したり、細部にこだわりすぎたりして、ちっとも話が進まない。しかも重要な決定を下すには、何重もの官僚的な手続きを踏まなければならない。

 実際、これを指摘するのは憚られるが、ヘンリーは聞こえのよいことではなく、クライアントが耳を傾ける必要があることを指摘するのを誇りに思っているのだ。