刑事訴追を逆手に取る
巧みな選挙戦略で大きな成果
次期大統領選に立候補しているトランプ氏にとって、この起訴が今後の選挙戦にどう影響するのか注目される。通常であれば、大統領経験者として初めて刑事訴追されるということで政治的に大きなダメージとなるはずだが、トランプ氏の場合はその常識が全く通用しない。
それどころかトランプ氏はこの事態を逆に利用して、「政府はやり過ぎだ」との批判を強め、「自分は政治的迫害(不当な捜査)の被害者である」と描くことで逆境を有利な状況に変え、支持率上昇と寄付金収入の拡大を図っている。
まさに「混沌(こんとん)と混乱の状況においてこそ、大きな力を発揮する」といわれるトランプ氏の真骨頂だが、これまでもこのやり方で大統領在任中の2度の弾劾裁判を含め数々の危機を乗り越えてきたのである。
この選挙戦略はすでに大きな成果を上げている。
起訴の可能性についてメディアで報じられるようになった3月中旬ぐらいから、トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」を使って、検察とバイデン政権に対する批判を強めた。
そして3月30日、マンハッタン地区検察が起訴を決定した直後、トランプ氏は「私たちはアメリカの歴史の最も暗い章を生きている。この国の勤勉な人たちの敵である急進左派は、おぞましい魔女狩りで私を起訴した。しかし、これはジョー・バイデンにとって完全に裏目に出るだろう。皆さんのサポートにより、私たちはアメリカの歴史に偉大な章を書き加える、2024年は私たちが共和党を救った年として歴史に残るだろう」という内容の電子メールを支持者に送り、寄付を求めた。
その結果、トランプ陣営は起訴後24時間で約400万ドル(約5億2800万円)を、さらにトランプ氏が裁判所に出廷した4月4日の時点で1000万ドル(約13億2000万円)を集めたという。
トランプ氏はその約2週間前にも、「来週火曜日(3月21日)に逮捕される」とSNSに投稿し、3日間でおよそ150万ドル(約2億円)を集めている。
トランプ陣営の寄付を募る方法は実に巧みだが、「トランプ・セーブ・アメリカ合同資金調達委員会(TSAJFC)」という専門部署を設置し、そこから支持者に寄付を募る電子メールを送っている。
たとえば、トランプ氏が自身の逮捕予告を投稿した直後、同陣営は「最大の政敵を『逮捕する』と脅迫した民主党政権の罪が問われないのであれば、かつての偉大な共和国(アメリカのこと)は第三世界の専制政治の国と同じになってしまう。あなた方はこの国の唯一の希望です」というメールを支持者に送り、同時にトランプ氏の起訴を非難する嘆願書に署名し、500ドルか1000ドル、あるいは3300ドルの寄付をするよう求めたという(FOXニュース、3月22日)。