企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」。自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。
無理にやらせても自信はつかない
これまでの人材育成の考え方の一つに、次のようなものがありました。
「はじめは厳しく管理して、やればできることを教えてから、少しずつ任せるようにして、できるようになってから最後は信頼して全面的に委任する」
さて、厳しく管理して人が成長したでしょうか。実際には、なかなか成長せずに、いつまでも厳しく管理し続けなければならなくなってしまったのではないでしょうか。
メンタリングでは、はじめから信頼します。自分が見本となり、夢を共有し、相手に尽くします。
そして信頼関係ができてきたら、だんだんと厳しく接していくこともあります。
さらに、強い信頼関係ができたら、叱ったり、怒ったり、厳しく管理をしても、相手はどんどん成長していきます。
よく、「はじめは言ったことをやらせるようにして、少しずつ自信を持たせたほうがいいのでは?」「はじめは、依存型でもいいのではないでしょうか?」というような、質問を受けることがあります。
確かに、そういうステップで接したくなる気持ちはわかります。今までの人材育成の基本が、このように考えられてきたからです。
しかし、メンターはこのような考え方とは一線を引いています。
なぜならば、一度でも、依存させてしまうと、自立させるためにより多くの時間と労力がかかるようになってしまうからです。
相手が言われないとやらないのは、今まで言ってやらせてきたからです。
そして、とても残念なことなのですが、言ってやらせたとしても自信はつきません。
それは言われたことを、仕方なくやっているからです。できて当然であり、できなければ、「無理なことをやらせる」と言って、こちらのせいにされてしまうかもしれません。
また、失敗するといけないから、できるようになるまで任せることはできない、というのは、同じことを繰り返すような仕事の場合には有効でも、変化する社会の中で常に新たな状況対応を求められ続けるような仕事の場合には、まったく効果はありません。
そうではなく、たとえうまくいかないことがあったとしても、それを糧にして、成長し続けていく姿勢を身につけさせることが必要なのです。
つまり、できるようになってから任せるのではなく、はじめから任せて、失敗を糧にすることができるような姿勢を身につけさせるということです。
もちろん小さなことから任せて、だんだんと大きなことを任せていくようにします。
そのためには、育成する上司が、相手の前で見本となって、失敗を怖がらず、失敗を糧にして成長することを楽しんでいなければなりません。
大切なのは、相手が自分の意志で、自分の判断でやっているという感覚を持ちながら行動することです。
言われたことを仕方なくやるのではなく、言われたことを喜んでやる。依存するのではなく、自発的に行動する、ということです。
その上で成果を出すことができれば、その時、真の自信が生まれるのです。
メンターにとって重要なことは、相手が行動したかどうかではなく、自立型の姿勢で行動したかどうかです。自立型の姿勢を支援するのがメンターなのです。