企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。

メンタリング・マネジメントPhoto: Adobe Stock

メンターとは?

 メンターを一言で定義すれば、「相手が自発的に自らの能力と可能性を最大限に発揮する自立型人材に育成することができる人」と言うことができます。

 さらにわかりやすく、「相手をやる気にさせる人」と言ってもかまいません。

 メンターという言葉は、ギリシャ神話に出てくる老賢人「メントール」がその語源であると言われています。

 一九八〇年代に不況のアメリカで、成長した起業家が自分を精神的にも支援してくれた方々を、敬意を込めてメンター(Mentor)と呼ぶようになったことが、メンターという言葉が広まるきっかけになりました。

 その後、個人の能力を最大限に発揮させるために、精神面も含めた支援の重要性が強く認識されるようになり、近年では、企業の中においても「上司はメンターであれ」と言われるようにまでなってきたのです。

説得も強制もせず、自発性を引き出す

 メンターは、相手が本来持っている潜在的な可能性を最大限に引き出します。

 すべての人が、生まれながらにして無限の可能性を持っているにもかかわらず、それを出し切っていないだけなのです。

 ただ、ここで「引き出す」と表現すると、こちらが何らかの方法を使うことで、無理にでも引っ張り出すというイメージがあるかもしれません。

 そうではなく、「引き出す」というのは、自発的に潜在的な可能性を発揮したくなるように導くということです。

 人は自発的にならない限り、自分の能力と可能性を最大限に発揮することはないからです。

『イソップ物語』の「北風と太陽」をご存じの方も多いと思います。

 たまたま通りかかった旅人のマントを、どちらが先に脱がすことができるかを、北風と太陽が競い合うという話です。はじめに北風がチャレンジします。

 ビュービューと吹き荒れる風の中で、旅人は絶対にマントを脱ぐまいと力の限り抱え込みます。

 次に太陽がポカポカと旅人を照らします。旅人はその暖かさに、自分からマントを簡単に脱いでしまうのです。

 メンターはまさに、この話の中に出てくる太陽の役割を果たします。

 説得することもなく、強制することもなく、相手の自発性を引き出すのです。

 その結果、相手は指示がなくとも、自分の意志で考えて、行動することができるようになります。

 つまり、メンターは自立型人材を育成することができるのです。

「メンターであるかどうか」は相手が決めるもの

 一方、メンターに対機する人々を、プロテギーあるいはメンティーと呼びます。最近は、メンティーと呼ばれることが多いようです。

 ただし、ここで、注意しなければならないことがあります。

 それは、メンターとは、役職や資格、職業とかではなく、相手から与えられるいわば称号であるということです。自分がメンターであるかどうかは、相手が決めるものなのです。

 人と人との関係においては、相手から認められない限り、どのような資格を持っていたとしても、それはまったく無意味なものにすぎません。

 ということは、自分でメンターを名乗っている人に、残念ながら本物のメンターはいないということになります。

 そもそもメンターとは、究極のリーダーのあり方ですから、それは目指すものなのです。

 メンターと言われる人々は、メンターを目指してはいるものの、まだまだ自分はメンターではないと思っています。

 つまり、自分はひたすらメンターになることを目指すことで、その人は相手から見てメンターになることができるのです。