企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」。自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。
相手をそのまま受け入れる
こちらがどこまで相手を受け入れるかによって、相手もどこまでこちらを受け入れてくれるかが決まります。
「困った人だなぁ」と思った時から、相手は自分にとって困った人というレッテルを貼ったことになります。
そうなると、そのレッテルを見ながら、すべてその後の対応を考えることになってしまいます。
つまり、そのレッテルがある以上、適正な対応をすることが難しくなってしまうのです。
そもそも困った人というのは、こちらの思い込みにすぎません。自分の期待していたことと違う発言や行動をした人を、困った人にしてしまっただけなのです。
私たちは相手のことを何も知らないまま、その表面的な発言や行動だけを見て批判してしまうことがあります。
しかし、相手がそのような発言や行動をする理由が、その人の置かれている状況やそれまでの人生の中に必ずあるはずです。
それはこちらが勝手に、表面的に分析しても、はかり知れないものなのです。
相手の短い一つの発言であっても、これまでの人生のすべての蓄積の上での、とても意味深く重い一言なのです。
ある意味、すべての人間は自分勝手で未熟です。こちらの思い通りになる人間もいなければ、完成された人間もいません。
しかし、私たちは自分のことはさておき、相手に対しては「こうしてほしい、ああしてほしい」と、様々なことを要求してしまいます。
そしてそれらの要求が多いほど、期待外れになることも多くなり、信頼関係はなくなっていくことになります。
他人に期待することは、信頼関係を失うきっかけをつくることなのです。
信頼とは、相手がこちらの思い通りにならなくとも、そのまま受け入れることです。いわば、「信頼できない人を信頼すること」が信頼なのです。
つまりこちらが信頼することで、相手からも信頼されるようになります。相手がこちらを受け入れた時、はじめてこちらの話を聞くようになるのです。
どれだけ正しいことを伝えても、伝わるかどうかはわかりません。相手がこちらの話を聞きたいと思わない限り、何を言っても無駄になってしまいます。
つまり話している内容が伝わるかどうかは、相手から信頼されているかどうかによって決まるのです。
いわば信頼とは、相手がこちらの話を聞きたくなるような気持ちになることです。