企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」。自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。
話し合っても、わからない
「話し合えば、わかる」ということがよく言われますが、本当にそうでしょうか。
もしそうならば、会議の時間が長い会社ほど、あるいは飲み会の回数が多い会社ほど、企業内のコミュニケーションはよく取れていることになります。
そして、話し合う時間をつくりさえすれば、誰とでも信頼関係がつくれることになります。
しかし現実には、会議の時間が長く、飲み会の回数が多くなるほど、企業の業績が悪くなる徴候であると言われたり、また、話し合った結果、お互いの溝が深くなったりしてしまうこともあります。
いったいなぜ、このようなことになってしまうのでしょうか?
問題は、お互いの意識にあります。
つまり、相手とわかり合いたいと思うか、相手とわかり合いたくないと思うか、ということです。
「あの人とは、何度話し合ってもらちがあかない。どうしてもわかってくれない」
「話し合おうとすると、喧嘩になってしまって、話し合いにならない」
これらは、はじめからわかり合おうと思っていないことに、本当の原因があるのです。
つまり、多くの「話し合い」という機会は、自分の意見を相手に押し通すことを目的にしているからです。
話し合えばわかり合える、というのは、お互いが相手のことを理解しようという気持ちが根底にあり、単に情報が共有化されていない時だけなのです。
そもそも話し合うのは、誰のためなのでしょうか。
自分の意見を押しつけようとして話し合うほど、話し合いはうまくいかなくなり、相手の意見を活かそうとして話し合うほど、話し合いはうまくいきます。
自分の意見を優先して、相手の意見を否定しようとすれば、相手を説得することになります。もちろん、相手も自分の意見を否定されないように反論してきます。
しかし、相手の意見を聞くほど、相手もこちらの意見を聞いてくれるようになります。
自分の意見を押し通すためではなく、相手の意見を取り入れるために話し合えば、それによって、自分一人では到底できないようなすばらしいプランができます。
相手を説得するためではなく、相手に共感してもらうために話し合えば、たくさんの仲間を集めることができます。
話し合うのは、相手のため、社会のため、日本のため、そして人類のためなのですから。