給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全――成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が3月15日に発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載では、特別に本書から一部を抜粋・編集してその要旨をお伝えしていく。

1株益とPERで株価のシナリオを考える(1) ファーストリテイリングのケースPhoto: Adobe Stock

1株益とPERでシナリオを考える①
ファーストリテイリング

 ファーストリテイリング(9983)は、LifeWear(究極の普段着)を開発して世界に広めるというコンセプトを持つ会社です。長年にわたり商品開発を進め、国内事業で業界トップの体制を確立しつつ、海外展開も軌道に乗せてきました。海外売上高は国内売上高に並ぶところまで育ち、今後は海外売上高を大きく伸ばして、国際的な企業として飛躍していくことが期待されます。

 売上高は2018年8月期に2兆円に乗せた後は、コロナ禍などもあり足踏みしていますが、中期的に3兆円を目標としています。3兆円を達成したあとも、さらに海外での拡大余地は大きく、LifeWearの提供という強みを向上させていくことができれば、長期的な安定成長を続けることも可能ではないかと思われます。

 ファーストリテイリングの2022年8月時点での1株益、PER、株価の状況は下図の通りです。1株益は過去最高の水準で、PERは33.4倍超とかなり高くなっています。同社の強みや将来性の高さが市場ですでに高く評価されています。

 過去の利益増加ペースは5年で1.5倍程度であり、そのペースが順調に続くというのが5年後のシナリオ①です(上図)。これまで通りの順調な成長が続けば、市場では高い成長率がさらに続く期待が維持されて、PERも30倍前後をキープできる可能性があるでしょう。そうなると、株価は10万8000円という計算になります。比較的強気なこのシナリオでも、株価上昇はそれほど大きくは期待できない計算になります。

 一方、思い通り成長できず、1株益が5年後にも現状維持に留まるシナリオ②も想定しておきましょう。その場合、成長期待ははげ落ち、PERは標準的なレベルの15倍くらいに落ちることも考えられます。そうなると、株価は3万7500円程度という計算になります。

 以上のように強気シナリオと弱気シナリオを想定した場合、強気シナリオなら株価が32%の上昇、弱気シナリオでは54%の下落となります。

リスク・リウォードレシオとは

 うまくいく場合のリターンと、失敗する場合の損失の比率をリスク・リウォードレシオといいますが、このシナリオに基づくリスク・リウォードレシオは、32÷54≒0.6です。リスク・リウォードレシオは、2倍以上が望ましいので、これはあまり良い数値とはいえません。

 しかし、PER20倍の5万円程度で買えれば、強気シナリオで116%上昇、弱気シナリオで25%の下落となり、このシナリオに基づくリスク・リウォードレシオは、116÷25≒4.6とグンと良くなります。

小泉秀希(こいずみ・ひでき)
株式・金融ライター
東京大学卒業後、日興證券(現在のSMBC日興証券)などを経て、1999年より株式・金融ライターに。マネー雑誌『ダイヤモンドZAi』には創刊時から携わり、特集記事や「名投資家に学ぶ株の鉄則!」などの連載を長年担当。『たった7日で株とチャートの達人になる!』『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ザイが作った「株」入門』ほか、株式投資関連の書籍の執筆・編集を多数手がけ、その累計部数は100万部以上に。また、自らも個人投資家として熱心に投資に取り組んでいる。市民講座や社会人向けの株式投資講座などでの講演も多数。
ひふみ株式戦略部
投資信託ひふみシリーズのファンド運用を担うレオス・キャピタルワークスのメンバーにより構成された本書監修プロジェクトチーム。
ひふみ投信:https://hifumi.rheos.jp/