激動の時代、個人投資家が株投資で勝ち切るのは容易なことではない。しかし、策はある。特集『「お金」大全』(全17回)の#10では、長く読み継がれてきた株投資の古典的名著に学ぼう。ロングセラー7冊が教える、運用のプロにも負けない鉄則とは何か。株投資の鉄則は三つある。一つは「トレードはするな」。残る二つの鉄則とは?(ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣)
鉄則その壱・基本の柱
「トレードはするな」
古典的な名著たちが上梓された頃と比べ、投資環境は大きく変化している。だが、その神髄はいささかも陳腐化していない。ジャック・D・シュワッガーが著書の『マーケットの魔術師』で述べているように、「マーケットを動かすのは人間の心理であり、人間の心理(恐怖や強欲などといった人間の根本的な感情)は不変」だからである。
名著の再読は新たな気付きを生み、これまでの投資スタイルを見つめ直すヒントを与えてくれる。多くの投資家たちに読み継がれてきた古典的名著7冊から今学ぶべきのエッセンスは、三つの鉄則、三本柱に集約できる。順に見ていこう。
壱の鉄則・基本の柱は「トレードはするな、長期・積み立て・インデックス投資すべし」である。
「トレードはするな」ということは「投資家を辞めよ」といっているに等しいと感じる投資家もいるだろう。しかし、チャールズ・エリスは著書の『敗者のゲーム』で、高度な情報とIT装備と経験を備えた、優秀で長時間働く運用のプロに勝つことはますます難しくなっているという。そのプロでさえ、取引コストを支払ってもなお市場平均を上回る成績を出すことは「もはや不可能に近い」と断言している。効率的市場仮説といわれる考え方だ。
ジェレミー・シーゲル著の『株式投資』では、投資カウンセラーの言葉を借りて「売買は余分な心配と(投資)利回りの低下をもたらす以外何もしません」と述べている。それでもトレードを繰り返すのは、多くの投資家が「満足度を最大化し、常に合理的に行動する」という合理的選択をしないため、とする行動ファイナンスに基づいた考えを紹介していた。
バートン・マルキール著の『ウォール街のランダム・ウォーカー』に至っては、その題名が「過去の動きから将来の動きや方向を予測することは不可能である」を意味するランダム・ウォークという言葉に由来している。
それでは投資家は、どうすればよいのか。『敗者のゲーム』では、インデックス投資を中心とした長期運用政策を、波乱があっても堅持することで資産運用は「勝者のゲーム」になると説く。『株式投資』では、安定した長期投資の利益を求める全ての人にとって、インデックスファンドは魅力的な株式投資の方法になるという。そして『ウォール街のランダム・ウォーカー』でも、まずはインデックスファンドを買うことが、ランダム・ウォークなウォール街、つまり株式市場の歩き方だとしている。
市場に勝とうなどとは考えず、市場に従い長期スタンスでインデックス投資、という結論には全く面白みもない。しかし、投資は責任ある仕事で、楽しいお遊びでもなければ、ギャンブルのようにワクワクするものでもない。長期にわたり、黙々と継続的に行うものなのである。
次ページでは残る二つの鉄則を紹介しよう。