SAPはコンピュータソフトウェアの開発販売・コンサルティングで全世界6万人を超える人員を擁する、IT業界を代表するグローバル企業である。そのSAPにおいて、生粋の日本人ながら全社員の上位2%に6年連続で認定され、30歳時にSAPジャパンにおいて最年少で部長となった人物が金田博之氏だ。その後も会社員として圧倒的な結果を残し、36歳でSAPジャパンのチャネル営業を統括する責任者に就任している。
近著の『結果は「行動する前」に8割決まる』では、そうした実績の裏にあった各国のSAP社員との交流が一部紹介されたが、今回は金田氏がこれまで交流をもったアマゾン、グーグル、HP、マイクロソフトといったグローバル企業のトップ層のすごさの秘密を言語化してもらった。
すべてを洗い出すからこそシンプルにできる
外資系のある会社の戦略部門を統括する副社長のGさん。ロシア人です。彼とは私がSAPジャパンで営業企画本部長をしていたとき、よく会合などで会い、一緒にビジネスも進めた仲ですが、驚いたのは彼の戦略資料のスケール感の大きさと斬新さでした。
通常、外資系企業が経営戦略を練るときは、本社の中枢部門が練り、それを各国の拠点がシェアするイメージがあり、実際、そのほうがやりやすい面があります。そのため、翌月から急に部署名が変わったり、部下全員が入れ替わったりすることもあるわけです。
ところが、彼のやり方は異なります。世界企業の経営戦略となると話が大きいので、まず、少し小さな例を出してみましょう。
2年ほど前、外資系企業で、業務のシンプル化が注目を集めた時期があります。オペレーションに関わることなので、多くの世界企業では各国独自に業務をシンプル化したほうがよいと思っていましたが、Gさんの場合は違いました。世界各国で業務上問題となっていることをすべて集めて、それをプロセスごとに分解し、ムダなものをまず省き、改良の必要なものに世界を通した優先順位を設け、その優先順位にそって一網打尽に片付けていったのです。
当然ながら、ある国では優先度が高くても別の国では低い事項があります。それを一つの基準で優先付けして切り分けていくわけです。
なぜ、そのような手法をとるのか。Gさんはその年の業務のシンプル化を考えているわけでもなく、ある一つの国の企業の業務のシンプル化を考えているわけでもないからです。それぞれのテーマについてどのような対象を盛り込めば適切なのかを見極め、その5年先、10年先のベストプラクティスを実現するということに重きを置いているのです。そのために世界各国の情報を収集する。まさに、地域も時間軸も、日本人の私には想像できないくらい大きなことを推し進めていました。
Gさんはロシア出身でハーバード卒。1国のなかでも環境差の大きい国に生まれ育ったことが、そのスケール感に影響を与えているのかもしれません。