SAPはコンピュータソフトウェアの開発販売・コンサルティングで全世界6万人を超える人員を擁する、IT業界を代表するグローバル企業である。そのSAPにおいて、生粋の日本人ながら全社員の上位2%に6年連続で認定され、30歳時にSAPジャパンにおいて最年少で部長となった人物が金田博之氏だ。その後も会社員として圧倒的な結果を残し、36歳でSAPジャパンのチャネル営業を統括する責任者に就任している。
近著の『結果は「行動する前」に8割決まる』では、そうした実績の裏にあった各国のSAP社員との交流が一部紹介されたが、今回は金田氏がこれまで交流をもったアマゾン、グーグル、HP、マイクロソフトといったグローバル企業のトップ層のすごさの秘密を言語化してもらった。
 

外資系企業のトップ層は真摯に夢を語る

 さまざまな文化が混在するヨーロッパ。なかでもひときわ異文化でのビジネス経験が豊富な外資社長・Aさんと初めて会ったのは、2010年10月のこと。Aさんの社長就任後、初めてヨーロッパで開催されたミーティングで、私がファシリテーターとして呼ばれたときです。Aさんの会社とは懇意にしていたので、私に「ミーティングを仕切ってくれ」という話がきました。

 集まったのはAさんの知人で全世界のトップビジネスマンばかり。ただ、互いに面識はなく、また、日本人は私だけでした。みな緊張ぎみで、私もAさんの会社はよく知っていたものの司会進行役は初めて。「何から切り出していいのか?」と、心臓はドキドキでした。

 Aさんは外資系トップにありがちな威圧的な人物ではなく、物腰柔らかい人物でした。メンバーもトップビジネスマン同士ですから、和やかムードに包まれてミーティングはスタート。「メンバーがそれぞれどんな夢をもっているか」という話になり、そのときAさんが口にしたのが次の言葉でした。

Make something really good things to the world.

「世界に何か少しでも役に立つこと、変化できることに貢献していきたい」ということになるでしょうか。

 Aさんは、自分が社長に上り詰めるまでのエピソードを淡々と続けます。開発者としていまの会社に入ったこと、最初は自分の弱点を知りたくて何でも人に聞き、雑用もいとわず、ボランティア精神でやってきたこと、その結果としてキャリアがあとからついてきたこと、キャリアを積む過程では「自分が信じること」よりも「他人が信じること」を重点的にやってきたこと、そして他人という目線で自分を見ることができるようになったこと……。そうした仕事観をもって働いてきた結果が、「世界に役立つ、世界の変化に貢献する」という夢だったのです。

 Aさんの質問は、「あなたの夢はなんですか?」という聞き方ではなく、「人生の最終日、社会の最終日にどのような姿でいたいか」というものでした。私には、その質問をAさん自身がつねに自問自答している背景が感じられ、その背景があって発した言葉と受け取ったのです。

「グローバルな意識」にはバックボーンがある

 多くのビジネスマンが、よく「グローバル」ということを口にします。「グローバルな人材になる必要がある」「グローバルな視点をもつことが欠かせない」などと、その使い方はさまざまです。その言葉を訳すと「世界的」「世界に通用する」ということになるでしょう。

 このことはとても大切です。「世界に通用する人材になる必要がある」ことも「世界的な視点でものごとを見ていく」ことも、とても大切なテーマです。

 しかし、常日頃から私たち自身がグローバルということを本当に考えているのか、さらに、ほとんどが初対面の人たちのミーティングで、違和感なく、そのことについて会話ができるのか、となると別問題です。

 日本人が語る「グローバル」は、どうしても大風呂敷であったり、「英語が使える」など安っぽい話になったりすることがよくあります。しかし、実際にグローバルに活躍する人材は日本人の感覚とは少し異なり、このことを語るだけのバックボーンがあるのです。