外資系ならでは、の情報収集量

 私がまず驚いたのは、Gさんの情報収集量の多さです。
 たとえば、外資系企業に特有のことでしょうが、A社ジャパンの競合会社にH社ジャパンとかI社日本法人という会社があるとします。これはA社だけのことでなく、グローバル企業であるH社もI社もどれも、それぞれ別に拠点国に子会社おいているのです。
 つまり、日本の外資系企業の多くは皆、本国グローバル企業の子会社として妙に横のつながりもあり、競合他社でありながらも情報交換が盛んなのです。当時のGさんも同じような立場にいたわけですから、自分の会社の海外情報も収集できますが、日本の他社外資の情報も収集できるわけです。

 Gさんは、そういった関係性をうまく構築・活用して情報を入手していました。自分自身が世界各国のグループ企業から集める情報に合わせて、このような付加情報も集めるのですから、その量はとても膨大になります。Gさんが集めた情報をプリントしたものを見たわけではありませんが、もし重ねたとすると、瞬時に数センチにはなるイメージでしょう。
 そして、このような情報収集から生まれた経営戦略資料は、おのずとスケールが大きく、細かな点にも配慮が行き届き、かつ数年先を見通したスケールの大きなものとなるのです。

世界共通の戦略に重要なシンプルさ

 さらに、Gさんのつくる戦略資料は、各国共通の部分については、とくにシンプルでした。しかし、膨大な情報があるのですから、誰かに何かを聞かれれば、どんなことでも答えられるようになっているのです。
 私は彼に、資料がシンプルである理由を聞いたことがあります。彼の答えはこうでした。

 「複雑なことを複雑に伝えるなら、誰でもできる。時間があれば、膨大な資料をつくることだってできる。で、『これ読んどいて』と渡せば簡単なことさ。でも、とくにグローバルな会社では、それを伝えると、各国なりに解釈していく。ある国で喫緊の課題と理解されることが、他国では『近いうちに……』ということも。それを避けるために、共通する戦略だけを3枚くらいにまとめて伝え、『これが全世界に共通するから重要だよ』と理解をうながすんだ」

 Gさんは共通の戦略をつくるうえでシンプル化をとても意識していました。それは「アジアではこうやって成功しているから南米でもこの部分は取り入れたほうがいい」といったことだけがまとめられたものです。
 もちろん、その背景には、アジアと南米の人口動態分析があり、各国の政治・治安状況、インフラ整備状況、Gさんの会社が扱う製品の市場規模や市場推移などの情報を細かく集めています。その分析の結果として、「こうやるのが正解」という戦略を伝達する。そして、各国では、その戦略資料をもとに、自国での個別の戦術の優先順位を上げたり、クロスセリングしたりといった手法をとるのです。