スタンフォード大学・オンラインハイスクールはオンラインにもかかわらず、全米トップ10の常連で、2020年は全米の大学進学校1位となった。
世界最高峰の中1から高3の天才児、計900人(30ヵ国)がリアルタイムのオンラインセミナーで学んでいる。そのトップがオンライン教育の世界的リーダーでもある星友啓校長だ。全米トップ校の白熱授業を再現。予測不可能な時代に、シリコンバレーの中心でエリートたちが密かに学ぶ最高の生存戦略を初公開した、星校長の処女作『スタンフォード式生き抜く力』が話題となっている。
ベストセラー作家で“日本一のマーケッター(マーケティングの世界的権威・ECHO賞国際審査員)”と評された神田昌典氏も、
「現代版『武士道』というべき本。新しい時代に必要な教育が日本人によって示されたと記憶される本になる」
と語った本書の要点と本に掲載できなかった最新情報をコンパクトに解説する本連載。
「情報7daysニュースキャスター」や「朝日新聞be on Saturdayフロントランナー」出演で話題。スタンフォード在住の著者と猪原祥博氏(連続社内起業家)との対談後編をお送りする。
星友啓(以下、星):前回の対談では、「連続社内起業家」として活躍中の猪原祥博さんに、今までの新規事業の立ち上げから、新刊『会社員3.0』で紹介されている会社員としての「新しい働き方」について伺いました。
後編では、会社員3.0の新しい働き方を目指すうえで重要な具体的メソッドを「4つのカギ」として猪原さんに紹介いただきます。
会社員3.0」にシフトする4つの心得 1.カスタマイズのカギ
1973年生まれ。連続社内起業家。500万人に1人しか持ち得ない社内ベンチャー実績を持つ日本でただ1人の会社員。広島県出身。NTT西日本の新規事業の創出組織に所属。国内最大級の電子コミック配信サイト「コミックシーモア」を運営するNTTソルマーレ、太陽光発電の遠隔監視装置「エコめがね」を展開するNTTスマイルエナジー、ねむりのDXによって未病ケア社会を創るNTTパラヴィータの戦略子会社を3社連続して立ち上げた。社内ベンチャー・新規事業創出のプロフェッショナルとして、NTTドコモ、NTT東日本、オムロン、旭化成、アサヒビールなど複数の企業社員に対して講師を勤め、慶應義塾大学、大阪市立大学などでも講演を行っている。
猪原祥博(以下、猪原):人間は自分の得意なことをやらないと力が出せません。
私は「得意なこと」は「楽しめること」だと思っています。
指示された仕事が楽しめそうならやってみたほうがいいと思いますが、大半はあえてやる意味を感じられず、ワクワク感がないものが多いですね。
そのとき、それを仕事としてやるのではなく、自分が楽しめる形に「カスタマイズ」してから取り掛かることが重要です。
自分が楽しめる、やりたいと思えるものに変えてしまえば、「やらされている感」がなくなります。
すると、仕事は面白いから継続でき、自らのパフォーマンスも大いに発揮できる。結果、高いアウトプットを出し、給料も上がっていきます。
前提として、「楽しめないものはやらない」。
そして、「楽しめるものに変えていい」という思考プロセスが重要です。
星:よく、「どんなことでも、自分の意義を見つけられる!」「まずは意義を見つけろ!」という人もいます。
ですが、解釈を変え、意味を見つけるだけでなく、その仕事の中で、実際の仕事の形も変えていい。そのほうが仕事の意味を見つけやすくなるという部分が新しいですね。
猪原:一例として、「オフィス内の作業スペースを10m移動させる」というタスクを、「魅力的なオフィスをつくる新規プロジェクト」にカスタマイズしたことがありました。
元々のオーダーは「新部署が入るため、窮屈になるが全員で少しずつ動いて10m分のスペースを確保してくれ」という生産性を感じられないものでした。
そこで、これを機に新規事業を行う部署にふさわしい「魅力的なオフィスをつくるプロジェクト」に変えようと思い立ったのです。
これなら、貴重な人生の時間を使ってやる意義があるなと思いました。
そのとき、おそらく私は、言われた仕事だけをやった場合の10倍時間を使っていたと思います。
ですが、そのほうがやりがいがあり、楽しい。
私の中ではそのオフィスづくりが、ある種のキラキラとした思い出として大切に保存されています。
星:くだらない仕事だと思ってしまえばそれまでですが、いかにそこから発展させ、やりがいのあるものに変えていくか。その大切さを身にしみて感じられた一例ですね。
2.共感のカギ
猪原:次に、「共感のカギ」は仕事をカスタマイズするうえで非常に重要です。
やみくもに自分が楽しいと思える方向に仕事をカスタマイズしようとすると、上司から「余計なことをするな」と跳ね返されてしまいます。
そこで私は、仕事を「大義」と結びつけるように伝えています。
まず、「世の中のために」「会社全体のために」など、自分より何か大きなものに結びつけて仕事を捉えるのが重要です。
そして、自分が本当にやりたいと腹落ちできるまで、その仕事に関する情報を徹底的に集めつつ、実際に人に会ってヒアリングします。
自ら腹落ちすることで、「大義を達成するために協力してください」と本気で言えるようになります。
会社(上司)にプランの承認をもらいにいく前にも、まずは大義に共感してもらいつつ、前向きにプランを話し合える状況をつくることが大事。これこそ最初にやるプロセスだと思っています。
星:ただプランを持っていったとしても、合理性や論理性の部分で勝った、負けたという形で判断されてしまう。
そうではなく、共感の部分でまわりを味方につけるのはとても重要ですね。
私自身、米英に渡って一番感じたことは、『スタンフォード式生き抜く力』の主題である「共感の重要性」でした。
また、『会社員3.0』の中で興味深かったものに、「黙認」というコンセプトがありました。これについて、説明いただけますか?
猪原:組織内で大きなことをやろうと思えば思うほど、承認をもらわなくてはいけない相手が増えていきます。
たくさんの方から完全な承認が得られればいいのですが、それぞれの立場があるので、なかなかうまくいかないもの。
プランの承認は、大義を達成する一つのプロセスにすぎないので、100点満点を求める必要はありません。
ですから、「今回は黙ってやらせてやるよ(プランには気にいらないところもあるけど)」という「黙認」を勝ち取れば十分なのです。
完璧な合意を求めるがあまり、少しでも批判されるとつい説得しようとしてしまうのですが、論破する時間がもったいないですし、無用な敵を増やすリスクが増えます。
ですから、多少の見解の違いがあっても、「黙認」に落ち着くならそれでよしとするのです。