できる人ほど「もっと効率的に仕事をしよう」とか「より合理的に物事を判断しよう」と考え、行動します。
しかし、時にそのような「一人の合理的行動」が全体の生産性を下げてしまうことも…。
いったいどういうことなのでしょうか?
30代で経営者歴10年以上、『20代が仕事で大切にしたいこと』著者の飯塚勇太氏に、「合理的思考」に隠されたワナについて伺いました。
(編集/和田史子)

書籍『20代が仕事で大切にしたいこと』の著者が教える、「合理的思考」のワナとはPhoto: Adobe Stock

「合理的」がいつも正しいとは限らない

私がはじめて働いたのは、高校1年生の頃のことです。
引っ越し屋さんのアルバイトでした。

新入りの私も、先輩アルバイトも、時給は同じでした。仕事の拘束時間も同じ。
「同じ時給・拘束時間なら、自分の作業はさっさと終えて合間にサボっていたほうが得だ」
そう考えた私は、スキを見てこっそり休んでいました。
するとほどなく、先輩アルバイトに見つかり、こっぴどくしかられました。

仕事はちゃんとしているし…と、私なりに考えて編み出した「合理的でお得な働き方」だったのですが、結果的には大失敗に終わりました。当然といえば当然です。

当時の私には、「他者想(他者への想像力)」が欠如していたのでした
(他者想の重要性については、過去の記事をご一読ください)

自分一人でサボればさすがに怒られるPhoto: Adobe Stock

言うまでもありませんが、引っ越し作業は一人でおこなうものではありません。
作業現場には一緒に働いている人たちがいます。
自分がサボるということは、誰かがその分働かなければならないということです。

「さすがに一人でサボるのはよくない」と反省し、私は思考を切り替えました。
みんなのために、自分が仕事をがんばって早く終わらせたほうが得だ」と考えたのです。

引っ越しの仕事は、どんなに早く終わっても、拘束時間は変わりません。
仕事が早く終われば、堂々とみんなでサボることができるわけです。

私はとにかく動き回り、さっき叱られたばかりの先輩アルバイトの方に、「どうすればみんなの仕事が早く終わるか」を聞きまくり、その教えを素直に実行しまくりました

先輩のアドバイスもあって、仕事は早く終わり、みんなで休憩という名のサボりができました。

「サボるな」とあんなに怒っていた先輩アルバイトも、一日の仕事が終わる頃には、やけにかわいがってくれるようになりました。

みんなが幸せになるための「行動」をとろうPhoto: Adobe Stock

「みんなが得をする合理性」を追求する

「合理的思考」で陥りやすいのは、先ほどの私の例のように「自分だけが得になる合理的思考」です。

私のアルバイトの話は「浅はかな例」ですが、ビジネスの現場でも似たようなことはよく起こります

先日、他社の方からこのような話を聞きました。
「優秀」との呼び声高い新人が、「その仕事、私がやる意味あるでしょうか?」と上司がお願いした仕事を断ってきたというのです。

たしかに「優秀な私(新人)」にとっては、その仕事は価値の低いもののように思えたのでしょう。
しかし、上司も意味なくその新人に仕事を振っているわけではありません。
見単純作業に思える仕事にも、大切な役割がある。
そういったことを経験・理解した上で、上司は改善策や合理化のアイデアがほしかった。
にもかかわらず、「私にやる価値はない」と断ってしまったのだそうです。
優秀な新人だからこそ振った仕事だったのに、自ら成長のチャンスを逃してしまいました。

自分の利益だけを考えて実行したら、周りに不快さを与えるだけであり、仕事はうまく進みません。

一方、「みんなが得をする合理的思考」を実行したら、みんなが喜び仕事も早く終わります
新人の方も「みんなが得する合理的思考」を駆使すれば、いち早く単純作業を終えて、よりコストをかけずに終わらせる方法を上司に提案できたでしょう。
そうすれば、みんなに喜ばれて自身も評価されたはず。非常にもったいないことです。

単純な「合理性」が常に正しいとは限らないのだと、あらためて認識しました。

単純な「合理性」が常に正しいとは限らないPhoto: Adobe Stock

「自分だけの合理的思考」が、全体の生産性を下げる

おそろしいことに、「他者想」を持たない「合理的な行動」は、かえって全体の生産性を下げます
このことは、仕事において非常に大事なポイントです。

先ほどの引っ越し作業でいえば、一人だけサボっている人がいれば、ほかの人たちはおもしろくありません。「私もサボろう」という人が出てきてもおかしくありません。全員がダラダラしてしまう可能性さえあります。先輩が叱るのも当然です。

「みんなが幸せになるには、どうしたらいいだろう」と、常に「他者想」を発揮しながら「合理性」を働かせることではじめて、仕事の真の生産性は高まっていくのです。

(飯塚勇太著『20代が仕事で大切にしたいこと』から一部を抜粋・改変しています)

飯塚勇太(いいづか・ゆうた)
株式会社サイバーエージェント専務執行役員
1990年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。
2011年、サイバーエージェントの内定者時代に、友人らと開発・運営した写真を1日1枚投稿し共有するスマートフォンアプリ「My365」を立ち上げ、21歳で株式会社シロク設立と同時に代表取締役社長に就任(現任)。2014年、当時最年少の24歳でサイバーエージェント執行役員に就任。2018年株式会社CAM代表取締役、2020年株式会社タップル代表取締役に就任(現任)。2020年サイバーエージェント専務執行役員に就任(現任)。
『20代が仕事で大切にしたいこと』が初の著書となる。