失敗しても、それを次に活かせるかどうかが大事だ、とよく言われる。しかし実際は、仕事ができる人とそうでない人の差は、「失敗したあと」ではなく「失敗する前」にほとんど決まっているという。
リクルートに入社し、25歳で社長、30歳で東証マザーズ上場、35歳で東証一部へ。創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家、株式会社じげん代表取締役社長執行役員CEO・平尾丈氏は、「起業家の思考法を身につけることで、正解がない時代に誰もが圧倒的成果を出すことができる」と語る。本稿では、平尾氏が執筆した『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』より一部を抜粋・編集して、「失敗を活かせる人、そうでない人の差」を解説する。

起業家の思考法Photo: Adobe Stock

「いつまでも成長しない人」のメンタルの特徴

「行動しながら考える」「小さな失敗をしてから考える」というメンタリティでビジネスに臨むと、絶対に成功しない。

『起業家の思考法』の著者であり、株式会社じげん代表取締役社長執行役員CEO・平尾丈氏は語る。

 失敗は成功のもと、とはよくいうものの、たしかに平尾氏の言う通り、どれだけ失敗しても何も学ばず、失敗の数が増えるだけでちっとも成長しない人も存在する。

「失敗」の本質とは、いったい何なのだろうか?

「失敗」のデメリットを直視せよ

 さて、世間では失敗論がさかんに取り上げられている。たくさんの失敗経験を積むことのメリットが語られることも多いが、「失敗すればするほど次のステージに進むことができる」という考え方には危うさもあると、平尾氏は警鐘を鳴らす。

 というのも、次のステージに進めるのはあくまでも「成功」したときであって、「失敗」から何も学ばず、次に活かすことができなければ、それはただのタイムロスでしかないからだ。「失敗した分だけ成長できる」とは、「失敗してもいい」という意味ではない。

 失敗をすれば、その分、何がよくなかったのか、次はどうすればいいのかなど、多くの学びを得ることができる。それは紛れもない事実だ。

 しかし、「失敗」したという事実だけで成長した気持ちになってはならないのだと、平尾氏は語っている。

失敗は学びが大きいものの、自信はつかず、信用は上がりません。一方の成功は自信と信用を得て前に進むものです。立ち止まる失敗と、前に進む成功。どちらも必要な両輪と考えておくべきです。(P.200)
私は、失敗するより早く成功を積んだほうが成長すると考えています。(P.204)

チャンスはもう一度くるとはかぎらない

 また、失敗したときに「終わったことは仕方がない」「次に活かせばいい」という人がいるが、実際のところ、一度失敗をした人間に、「次」がやってくるとはかぎらない。チャンスは二度と来ないかもしれないのだ。

「失敗しても大丈夫」という聞こえのいい言葉と、現実のビジネスの世界の、大きなギャップ。

 大学在学中に2社を創業し、以来、起業家・経営者として何度もビジネスの厳しさを味わってきた平尾氏だからこそ、その発想の危うさを敏感に察知しているのだろう。

 現実のビジネスで失敗すると、そう簡単には立て直せない。社会はときに残酷だ。失敗度合いが大きければ大きい分だけ、失った周囲の信用を回復するための余計な行動や手間もかかる。「自分はもうダメだ」と落ち込み、自信も失っていく。

失敗は誰かに責められるべきものではありません。だからこそ、自分から学ばなければならないのです。むしろ、学ぶ以外に何も得るものはないはずです。そのマインドは、あらゆる人にとって絶対に必要なものです。(P.203)

 そもそも、「成功していたら、失敗から学ぶプロセス自体も必要ない」という紛れもない事実を、見逃してはならない。

 リカバリーに費やした時間で、新たな「いい仕事」ができていたはずなのだ。失敗は大きなタイムロスであると、心に刻んでおこう。

デキる人が必ずやる「仮想失敗」とは?

 では、失敗の可能性をできるだけ回避するために、具体的にどんなことをすればいいのだろう。

 本書は、「回避すべき失敗」をできるかぎり減らすために、「仮想失敗」をしてみよう、と提案している。つまり、実行にうつす前に、一度頭の中で「仮に失敗してみる」のだ。

 仕事に取り組む前に、成功するパターンについて想像してみたり、成功したあとに何をするべきかを考える人は多くても、失敗したあとの打ち手を用意している人は、案外少ない、と平尾氏は指摘している。

 これは、悲観的になれという意味ではなく、客観的に問題を分析し、

 ・何をどうしたら失敗するか
 ・どちらに進んだらどのように失敗するか
 ・失敗したらどの程度の影響があるか
 ・失敗のリスクがあってもチャレンジするべきか
 ・どうすれば回避できるか

 など、成功を思い浮かべることと同様に、具体的にイメージすることがポイントだ。

 なかなか結果が出せない人ほど、「100%予定どおりに物事が進む」ことを前提に仕事の計画を組んでいるものだ。

 成功することが前提の甘い計画を立てているから、いざ実際に失敗が起きたときのリカバリーも遅くなってしまう。

 結果として、ボヤ騒ぎ程度でおさめられていたはずの火が大きく燃え上がり、その後の仕事に深刻なダメージを与えるような大失敗になったりする。

 徹底的に準備したとしても、思いがけないハプニングに見舞われることもある。

 でもだからこそ、避けられる失敗は避けられるように、事前に「仮想失敗」する習慣を身につけよう。

「失敗リスト」をつくろう!

 具体的には、「失敗リスト」をつくるのもおすすめだ。

 平尾氏は、「仮想失敗」で思いついた失敗をすべてリスト化し、その上で、そこまでしてもなお起きてしまった、予測不可能だった「失敗」を、リストに日々付け加えているという。

 すると、事前に想定していた失敗と、実際に起きた失敗によって、「失敗リスト」がどんどん充実していくのだ。

失敗は嫌いですが、あえて良い点を挙げれば、再現性がある点です。
再現性が低く、偉人の真似をしてもうまくいきません。しかし失敗は失敗したときと同じようなことをやれば、ほとんど同じ失敗をします。(P.204)

「失敗リスト」を毎日更新する、という習慣を取り入れることによって、「仮想失敗」の精度がどんどん上がり、次のチャレンジでは、より失敗を回避しやすくなる、というわけだ。

「失敗」は「成功」のプロトタイプ

 さて、とはいえ、これだけの対策をしていたとしても、起きるときには失敗は起きてしまう。

 とくに自分にとって未知の分野や、経験不足の仕事にチャレンジしようとすればするほど、失敗は起こりやすくなるだろう。

 しかしそれでも、仮想失敗を想定し、「失敗リスト」を充実させることで、できるかぎり「失敗」を回避することはできる。

「失敗」から学びを得るプロセスをシステム化することで、無駄に落ち込むことも少なくなり、メンタルの安定にもつながるだろう。

 優秀な人は、失敗を「成功のプロトタイプ」として、うまく活用する方法を熟知している。

「仕事で大きくつまずいたとき、脱する方法がわからない」
「落ち込むばかりで、下がった自己肯定感をどうやって上げるかにばかり心血を注いでいる」
「本質的な問題解決の方法がわからない」

 そんな悩みを持つ人は、一度、「起業家の思考法」をインストールしてみてはいかがだろうか。あるいは、あなたが殻を破るために必要なのは、この考え方かもしれない。