「起業したい」と1度でも考えたことがある人が、いま狙うべきもの

『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家として活躍。「ライフプラットフォーム事業」として、複数のインターネットメディアの情報を統合し一括して検索・応募・問い合わせを行うことができるEXサイトなど複数のビジネスモデルを展開している。
そんな平尾氏と対談するのはMOON-X Inc.のCEO長谷川晋氏。東京海上火災で法人営業を担当、P&Gでさまざまなブランドのマーケティングおよびマネジメント統括を経験。楽天の上級執行役員、Facebook Japan代表取締役に就任した後、2019年にMOON-X Inc.を創業し、ベビー&マタニティやレザー製品などのブランド運営事業を手掛けている。2022年11月には長谷川氏がこれまでの経験から培ったビジネススキルをまとめた『今すぐ結果が出る 1ページ思考』を出版した。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そのなかで圧倒的な成果を出しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。
連載第5回は、これからのスタートアップに対する考え方と現代のビジネスパーソンに向けたメッセージを語っていただいた。
(写真 株式会社じげん・津田咲)

不確実性の高い今の時代、大企業さえもゼロイチで商売する難しさに直面している

平尾丈(以下、平尾):ゼロイチで商売する難しさはスタートアップだけではなく大企業も抱えていますよね。

大企業でも経営的には昔の「商売ゼロイチ、当てたらOK」という考え方では難しい。

長谷川晋(以下、長谷川):どの大企業でも新規事業開発が急務になっていますよね。

平尾:今は大企業とスタートアップ、外資系と日本企業など、それぞれ真逆だと思っていたものの距離が近づいてきている印象を受けています。

大企業ではイノベーションやダイバーシティを共通テーマにしていたり、一方でスタートアップでは「エクセレントカンパニーから組織経営を学べ」という雰囲気があったり。

境界が曖昧で不確実性の高い時代のなかでは、どこでも使える汎用的な考えやビジネススキルが求められているのかなと。

長谷川:それがポータブルスキルということですよね。ものすごく共感しますね。

平尾:あとは全世界的にスタートアップやベンチャー企業の経営の方法論や管理手法の伝播スピードが早い。ここもだんだん距離が近くなってきていると感じています。

「起業したい」と1度でも考えたことがある人が、いま狙うべきもの平尾 丈(ひらお・じょう)株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。

長谷川:わたし自身はそれを証明したい気持ちもあるんです。

0⇒1と1⇒100は違う部分もあるけど、「全てが通用しないくらいの両極端ではないだろう」というのが起業するときの仮説でした。

企業におけるビジネス戦略は「Where to play(どこで戦うべきか)」「How to win(そこでどのように勝つか)」は鉄則だけど、それはスタートアップも同じなはず。

大企業でやってきたことはスタートアップでも通用するんじゃないのかな。

まだわたしはできていないんですけど証明していきたいですね。

平尾:じげんの取締役会でも、社外の役員の方から「じげんは1⇒10が苦手なのでは」「ウェブマーケティングのHOW(どうやって)だけではなくWHO(誰に)の部分をより強くしたほうがいい」と言われて、自分の経営観を見直すきっかけになりました。

長谷川:でもビジネスもブランドもマーケティングも、本来いろんな「正解」がある自由なものなので、HOWだけで突き抜けていってもいいと思うんですけどね。

平尾「10→100に到達するためにはWHOがさらに重要」とご指導いただき、その通りだなと思って勉強しています。

長谷川:なるほど。たしかにそうですね。

平尾:顧客志向の話なども含めて、皆さんがいろいろと教えてくださっていて有難いです。

長谷川:いやいや(笑)。でもわたしは逆も然りだと思っていますよ。大企業の人たちももっとスタートアップ企業から学ぶべきだと思うんです。

例えば、今は消費者の生活はスマホ中心でデジタルのことがわからないとマーケティングが語れないのに、なんとなく苦手意識が邪魔をして、本気で踏み込みきれていない印象があります。

トラディショナルなマーケ戦略やポジショニングができるマーケターと、デジタルマーケ系って混ざっていないので混ざるべきだと思うんです。

平尾:混ざることはいいことですよね。

今すぐできる意識改革「今の仕事でどんな伝説を残すのか」

平尾:長谷川さんは日本の起業家と海外の起業家の違いも感じていらっしゃいますか?

長谷川:海外では年齢を経てから起業するケースも多いですよね。

日本でもそういう人が増えていくといいなと思います。

わたしのようなミドル世代の起業家。大企業の偉い方ももっと起業してほしいです。よく考えたらそこまでリスクはないんですから、もったいない。

「起業したい」と1度でも考えたことがある人が、いま狙うべきもの長谷川晋(はせがわ・しん)MOON-X Co-Founder/CEO
2歳から9歳までアメリカ、シアトルで育つ。京都大学経済学部卒、体育会ハンドボール部主将。2000年に東京海上火災入社、法人営業担当。P&Gで10年間、Pampers・Gillette・BRAUN・SK-IIなどのマーケティングおよびマネジメントを統括。その後、楽天の上級執行役員としてグローバルおよび国内グループ全体のマーケティングを管掌。2015年Facebook Japanの代表取締役に就任、在任中にInstagramの国内月間ユーザー数は810万から3300万に。2019年8月に「ブランドと人の発射台」をミッションに掲げるMOON-X Inc.を創業。現在、自社D2Cブランドを展開すると同時に、共創型M&Aや他社ブランドの支援も展開中。『今すぐ結果がでる 1ページ思考』(ダイヤモンド社)が初の著書。
MOON-Xコーポレートサイト:https://www.moon-x.com/
Twitterでは次世代ビジネスリーダー向けに「#ビジネスの戦闘力」を高める情報を発信中:@ShinHasegawa8

平尾:大企業って本当に優秀な方が多いですもんね。新卒でリクルートに就職してよかったのが、大企業で活躍されている方々がとても優秀なんだなとわかったことでした。そのサラリーマン経験がなかったら今頃はもっと困ることがあったと思います。

最後に、今起業を考えているビジネスパーソンにアドバイスを送るとしたら、どんなことを伝えたいですか?

長谷川「今の仕事でどういう伝説を残すか」をちゃんと考えて狙ってほしいです。

10年後でもなく今の仕事での伝説。これはP&Gのシンガポールに勤めていたときに大先輩に、毎回のランチで聞かれていました。

目の前の仕事をやっていただけだったのが、毎回聞かれるので考えるようになったんです。

平尾:毎回聞かれたら意識しますよね。

長谷川:そう。でもそれを意識したら目線が変わりました。

「今の仕事でこんな伝説を残したい」、「こんなことをやったらすごくなるだろう」という気持ちの先にあるものは、きっと平尾さんの思考法もわたしの思考法も大きくは外していないと思うんです。

平尾:学生の方や若い方も、どんな伝説を残すかって考えられますもんね。

誰しもが今すぐにできる。わたしももっと頑張らないと!

長谷川:いやいやもうつくっているから!

でもそういう意味でも平尾さんの書籍は、ミドル世代にこそ読んでほしいですね。

「若いうちから起業するのが正解」と言われている日本でわたしは腕を磨いてからアプローチしたので遅咲きの41歳で起業という形になりました。

でも本当はわたしのような40代以上の起業家はもっと増えていい。

『起業家の思考法』『1ページ思考』も、やろうと思えばいまの仕事に活かすことができるはずですし、きっと楽しめる。

そして、起業する面白さも感じることができると思うので、ぜひ読んでほしいと思いました。

「起業したい」と1度でも考えたことがある人が、いま狙うべきもの