造りに行ける酒蔵が伝えたい「酒は最高にいい奴なんです!」

新日本酒紀行「豊明」8代目の石井誠さん Photo by Yohko Yamamoto

 自ら酒質設計し、酒造りできる蔵がある。費用は60万円で720mL瓶350本分。企画したのは石井酒造8代目の石井誠さんだ。関東平野の真ん中、埼玉県幸手(さって)市で1840年に創業。利根川と荒川に挟まれ、水が豊富で稲作も盛ん。水運も発達し多くの酒蔵でにぎわったが、規制緩和で大規模店が台頭。大手メーカーの酒が入り、閉蔵する蔵が増えた。石井酒造も業績が悪化し、先代の父は経営の多角化を決意。敷地内にゴルフ練習場を建て、街道に面した家を土台ごと敷地の奥に移築し、酒蔵を解体。その跡地にスーパーを誘致した。だが、「酒造会社が金看板。酒蔵は残す」と、新たに小規模な酒蔵を設け、高品質少量生産へ転換。昔の銘柄「豊明」を復活させた。

 2013年に26歳で、誠さんが社長に就任。「人生の喜怒哀楽に寄り添う、日本が誇る酒なのに浸透していない」と、クラウドファンディングやイベントを仕掛け、酒を「優しくていい奴」「面白くていい奴」「地元のいい奴」と分類。計り売りも開始した。また、「生産者の顔の見える米で仕込みたい。一粒たりとも無駄にできないし、酒造意欲も上がる」と考え、早稲田大学の先輩である大潟村松橋ファームの松橋拓郎さんに酒米の改良信交を譲り受け、「豊明」を醸した。すると、今春、英国で開催されたIWC(インターナシヨナルワインチヤレンジ)のSAKE部門で、純米吟醸がゴールドメダル、純米大吟醸がブロンズメダルとダブルで初受賞に輝く。「一同、狂喜乱舞です」と誠さん。「いい奴」のさらなる共感者を増やす。