1984年に刊行されて大きな話題となり、多くの経営者やリーダーに読み継がれてきた名著『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』。大東亜戦争における日本軍の組織的な失敗を分析。なぜ開戦に至ったかではなく、開戦後の日本の「戦い方」から日本の組織にとっての教訓を導き出した。日本人にとって極めて示唆に富む一冊だが、少し難解でもある。
そこで、そのポイントをダイジェストでまとめ、ビジネスパーソンが仕事で役立てられることを目的として送り出されたのが、『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』だ。さて、そのエッセンスとは?(文/上阪 徹 初出:2023年7月4日)

【日本軍の敗因】「悲惨な結果を生むリーダー」7つの共通点【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

昔も今も、日本人が負けてしまう「真の要因」

 大東亜戦争における日本軍の組織的な失敗を分析した『失敗の本質』。その考察をビジネスパーソンの仕事に役立てられないか、という目的で書かれたのが『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』。2012年の刊行当初から大きな話題となり、16万部を超えるベストセラーになっている。

 著者は、ビジネス戦略・組織論のコンサルタントである鈴木博毅氏。鈴木氏はかつて、ある経営者から、こんな質問を受けたと本書の冒頭に書いている。

「『失敗の本質』って、ビジネスにどう使えますか?」(P.6)

 その経営者は尊敬する先輩経営者から読むように勧められた。読んでみて、ヒントはあると感じたが、具体的にどう自分の会社に活かしていいのか、わからなかったというのである。もしかするとこれは、ビジネスパーソンの読者の多くに共通していた印象だったかもしれない。

 そこで鈴木氏は、自身がビジネス戦略・組織論のコンサルタントとして『失敗の本質』からどんなことを学び、仕事の現場で活かしてきたかを解説、実際の仕事に役立てられることを目的としてビジネスパーソン向けのダイジェスト版を送り出すことにした。それが本書だ。

 そして鈴木氏は序章でこう記す。

 大東亜戦争においても、物量や技術力の差は敗因の一つですが、失敗の本質そのものではなく、真の要因は日本的な思考法や日本人特有の組織論、リーダーシップにあると考えられるのです。(P.9-10)

 日本は戦後、たしかに奇跡の復興を遂げた。アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国にもなった。圧倒的な「物量や技術力」を手にした。

 しかし、バブル崩壊以降30年以上にわたる日本の閉塞状況を見ていると、またしても「真の要因」はそこにはなかったのではないか、と思わされる。

 日本人の本質は、実は変わっていないのかもしれないのである。

なぜ日本人は「転換点」に弱いのか?

 この記事を書いている私は、文章を書くことを仕事にしている。主戦場は、ビジネス領域だ。多方面の成功者に話を聞くこともあるが、多くは企業やビジネスパーソンに取材をして文章を書くことである。

 となれば当然、常にあちこちにアンテナを張り巡らせておかなければならない。ニュースやトピックスには、おそらく普通のビジネスパーソン以上に敏感に反応してきたと思う。また、経営者やリーダークラスに取材することも多く、経営上の課題を耳にすることも少なくなかった。

 しかも私がフリーランスになったのは、1994年。日本経済が、その後に続く長いトンネルに入り始めた頃である。以後、日本企業の失敗や苦境をずっと耳にすることになった。

 もちろん名著『失敗の本質』も読み、なるほどと思わされた。鈴木氏は、こう書き綴っている。

 最前線が抱える問題の深刻さを中央本部が正しく認識できず、「上から」の権威を振り回し最善策を検討しない。部署間の利害関係や責任問題の誤魔化しが優先され、変革を行うリーダーが不在。『失敗の本質』で描かれた日本組織の病根は、いまだ完治していないと皆さんも感じないでしょうか。(P.12)

 バブル崩壊後の日本の苦境は、まさに時代が転換期を迎えたことにある。昔の戦い方では、通用しなくなったのだ。ところが、日本人はなかなか変われない。これもまた、実は大東亜戦争でも同じだったのである。

 大東亜戦争が始まったとき、日本は電撃作戦によって各地で勝利をおさめている。ところが、ミッドウェー海戦での敗北以降、雪崩を打って敗戦に向かい、二度と立ち上がれなかったのだ。鈴木氏はこう記す。

 順調なときには強く全面展開しつつも、環境の転換期には一転して閉塞感に陥り、突破口を見出せない姿は、日本の企業活動全般にも顕著な傾向です。(P.13)

 なぜ日本人は、「転換点」に弱いのか。これについても本書で詳しく解説されるが、日本人の思考と日本の組織特有の弱点は、転換点で急速に露呈する、という。

日本人の中に流れる、7つの「失敗の本質」

 しかし、転換期は実は日本が負けた理由の一つに過ぎない、とも鈴木氏はいう。本書を読み進めていくと、心が苦しくなるほどに、その思いが募ってくる。そしてこれでもか、これでもか、というほどに、「今」と連なっていることがわかるのだ。

 それでもしっかり真正面から、見つめる必要がある。鈴木氏はこう書く。

 大切なのは、貴重な教訓から私たちが「次の失敗」をどれほど上手く避けることができるか、具体策を引き出すことではないでしょうか。
 変化に直面している会社、過去に成功した組織が内部で抱える次の失敗を避け、新たなイノベーションを成し遂げる方法を明らかにする。それこそが本書の最終目標であり、『失敗の本質』をビジネスをはじめとするさまざまな局面で活用するために必要なことだと考えています。
(P.16)

『「超」入門 失敗の本質』では、7つの視点で『失敗の本質』が紐解かれていく。

「戦略性」──俯瞰的な視点から最終目標への道筋をつくれない
「思考法」──革新が苦手で錬磨と改善が得意
「イノベーション」──ルールをつくり出せず既存のルールに習熟する
「型の伝承」──創造ではなく「方法」に依存する
「組織運営」──勝利につながる現場活用が苦手
「リーダーシップ」──現実を直視し環境変化に合わせて判断できない
「メンタリティ」──「空気」と同調圧力、リスク管理の誤解

 本書を読んで改めて感じるのは、日本人にははっきりと「苦手」があるのだということだ。大きく考えること、新しいやり方を始めること、自分でルールを作ること、創造を受け入れること、現場を重視すること、正しい判断を下すこと、現実を直視すること……。

 だが、これは他人事なのではない。自分自身のことでもあるのである。

(本記事は『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。