「こんな仕事のために…」新入社員が1年で退社、ホワイト企業が“ゆるいブラック”と化す理由Photo:PIXTA

いまや世間の“常識”となった「大卒新入社員の3割は、3年以内に離職する」――。実はもっと精査していくと、「大卒新入社員の1割は、入社1年目で離職している」ことが分かる。そして、そのあまりにも性急な離職の理由として、最近浮上しているのが、職場での成長の機会がないことなのだ。
一方で多くの会社が、働き方改革で若手社員を大切に扱い、「ホワイト企業」であろうと努めている。そうした職場環境の中で“お客様扱い”が続き、成長につながる負荷の高い仕事に恵まれず、失望して離職していく新入社員の実像に迫る。(フリーライター 伊藤博之)

入社早々に期待を裏切られた
配属先の仕事

「退職を上司に申し出ると、『いくらなんでも早すぎないか』と言って、まさに目が点になっていました。会社の経営はとても安定していて、そう難しくもない与えられた仕事をしていれば、着実に昇給や昇格もしていきます。

 しかし、私にとって最も大切なのは、自己の成長です。難易度が高くてストレスフルな仕事でも成長につながるのなら、残業も休日出勤も一向に構いません。勤め先がいわゆるホワイト企業であるかどうかは、私には関心がありませんでした」

 こう語るのは、上場会社でもある大手の情報通信会社を今年3月末に、ちょうど入社してから1年で退職した高橋隆次さん(仮名)だ。

 高橋さんは、有名国立大学の工学部に進学し、卒業後は大学院に進んで修士課程を修了した。在学中に、IT(情報通信)を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の展開などでビジネスが進化していくのを見聞きするうち、「ITによるクライアントの課題解決で、新しい価値創造を行っていきたい」と考えるようになり、期待で胸を膨らませながら選んだのが情報通信会社だった。

「こんな仕事のために…」新入社員が1年で退社、ホワイト企業が“ゆるいブラック”と化す理由Photo:PIXTA

 ところが、その期待は入社早々にしぼんでしまう。一体、高橋さんに何があったのだろう。

 配属されたのは、クライアントのシステムを構築する総勢100人強の部署だった。SE(システムエンジニア)職に就いた高橋さんは、プログラム言語やプログラミングなどシステム構築に必要な知識や技術の習得に励んだ。一方で、新入社員としての日常業務が割り振られることになった。

「でも、その大半が事務作業で、会議室の予約や会議の議事録作成を任されました。また、作業でクライアントのサーバーにアクセスする際に、あらかじめ権限の付与を行っておく必要があり、そうした事務的な手続きも私の役目だったのです」