日産自動車を主力得意先とする自動車部品大手の「河西工業」(東証プライム上場)が苦境に立たされている。今年3月期の決算では4期連続最終赤字となり、自己資本比率は7.7%に低下。決算短信での企業存続リスクに関する記述は正式な財務諸表上の注記に格上げされ、しかも24年3月期の業績予想は「非開示」となった。こうした中、主要な借入先の金融機関にも動きが出ており、今後、さらに厳しい局面を迎える可能性もある。(東京経済東京本部長 井出豪彦)

あおぞらアセットが
「主要な借入先の状況」に

河西工業の招集通知河西工業の招集通知の「主要な借入先の状況」にはあおぞらアセットが記載されている(筆者撮影) 拡大画像表示

 日産自動車を主力得意先とする自動車部品大手の「河西工業」(東証プライム上場)は、6月28日午前10時から神奈川県寒川町にある本社会議室で第92回定時株主総会の開催を控えている。その招集通知をながめていた筆者は20ページの「主要な借入先の状況」を見て、「おや?」と思った。

 りそな銀行191億円、みずほ銀行133億円、横浜銀行111億円、三菱UFJ銀行93億円、あおぞらアセット株式会社90億円。以上、借入先の上位5社と金額が開示されている(写真)。

 寡聞にして「あおぞらアセット」という会社の存在は知らなかったが、社名からあおぞら銀行の関連会社であることは容易に想像がつく。いずれにせよ、従来の借入先に入っていなかったのは間違いない。後に詳しく触れるが、河西工業は目下、深刻な経営危機に陥っており、自動車部品業界では「第2のマレリか」などとうわさされている。

 マレリホールディングス(非上場)も日産を主力得意先としており、昨年3月、私的整理の一種である事業再生ADR手続きを申し立てた。その後、全行同意が得られず、法的整理(簡易再生)に移行して経営破綻したのはご存じの通りだ。

 河西工業の招集通知から読み取れるのは、あおぞらアセットというノンバンクが新規融資に応じたのか、もしくは既存取引行の一部が見切りをつけて貸出し債権をあおぞらアセットに売却して撤退したのか、いずれかということだが、おそらく後者だろう。あおぞらアセットの商業登記の「目的」には「1.金銭債権の買取」「2.前号に付帯する一切の業務」の2項目しか記載されていない。

 不良債権ビジネスに詳しい関係者に取材したところ、案の定、あおぞらアセットはあおぞら銀のグループ会社で、河西工業向けの債権を三井住友銀行(SMBC)から買い取った結果、「主要な借入先」に登場したのだと耳打ちしてくれた。また、河西工業もダイヤモンド・オンラインの取材に対し、後述の通り、事実関係を認めた。

 メガバンクの一角が撤退したとなれば、一般の取引先にも動揺が広がることは避けられない。

 ちなみに、あおぞら銀行は債権回収会社(サービサー)の大手を傘下に持つなど、かねて不良債権ビジネスが得意だ。日銀の異次元緩和が始まってからはめっきり倒産が減り、不良債権ビジネスが注目されることも少なかったが、コロナ禍により業績の悪い、過剰債務企業が増えた。そこで再び金融機関の不良債権処理が活発化するとみて、周辺ビジネスに本腰を入れている。2021年8月の時点で日本経済新聞は『あおぞら銀、不良債権の買い取り拡大 200行と協議、企業再生支援』などと報じていた。

 前出金融関係者は「今年に入ってから水面下でSMBCが河西工業向けの貸出債権を入札にかけた。その結果、あおぞらアセットが落札し、3月末までに売却が完了したというわけ。無担保債権で、買い取り額はおそらく簿価の3~4割ではないか」と解説した。

 仮に事実であれば、額面90億円の貸出債権を27億~36億円で買い取ったということになる。今後、河西工業の業績が急回復して満額返済できれば、あおぞらアセットは大もうけだ。反対に、法的整理や事業再生ADRになれば、カット率によるが損をする可能性もある。さて、どうなるだろうか。