決算書で読み解く! ニュースの裏側 2023夏#6Photo:PIXTA

2022年3月、セントラル硝子が板ガラス事業で海外からの完全撤退を決めた。売上高に占める比率は28%もあり、苦渋の決断だった。実はこの頃、日本板硝子も極秘で、自動車用ガラス事業の撤退を検討していた。その比率は国内外合わせて46%。先行きが見えない同事業の売却で構造転換を図ろうとしたが、結局は見送りに――。同業2社の経営判断はなぜ、かくも違ったのか?特集『決算書で読み解く! ニュースの裏側 2023夏』(全27回)の#6では、日本板硝子が撤退案を断念した、財務的理由を解き明かす。(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)

「週刊ダイヤモンド」2023年6月24日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

日本板硝子「自動車事業撤退案」は幻に
セントラルは撤退を断行、経営判断が異なった理由は?

 国内ガラス大手のセントラル硝子が、本業の板ガラス事業で海外から完全撤退を決めたのは2022年3月末。これは欧米で展開していた自動車用ガラスの事業で、連結売上高の28%を占めていたが、赤字で収益の足を著しく引っ張っていた。

 セントラル硝子は同事業を米投資会社に売却。この海外撤退に伴い、484億円もの特別損失を出した。それだけの犠牲を払っても、高付加価値品の開発などで差別化するのが難しいガラス事業に見切りを付けたのだ。

 ところで、板ガラスを手掛ける日本のメーカーは、セントラル硝子、AGC、日本板硝子の3強体制。板ガラス首位のAGCは、18年に「旭硝子」の名前を捨てた。ガラス以外の事業を拡大することで、厳しい経営環境を生き抜いていくことを既に宣言済みだった。

 セントラル硝子も、国内で板ガラスを生産する4窯のうち、2窯を休止するなど、深刻な営業不振に陥っているガラス事業の生産縮小を進めていた。海外事業の撤退は、利益の大半を安定的に稼ぐ化成品事業に注力していく決意を、改めて示すものだった。

 一方、日本板硝子はどうか。実は、セントラル硝子が海外から完全撤退を決めた時期に、日本板硝子も「ひそかに自動車用ガラス事業の撤退を検討していた」(外資系投資ファンド幹部)。

 板ガラス事業は、建築用と自動車用に大別される。日本板硝子の自動車用ガラス事業も収益性が特に低かったが、その規模は国内外合わせて連結売上高の実に46%を占めていた。

 先行きが見えない同事業の売却で、日本板硝子も抜本的な構造転換を図ろうとした。実際、同社は売却先探しに奔走したが、極秘で検討された「自動車用ガラス撤退案」は結局、お蔵入りとなった。

 セントラル硝子と日本板硝子の経営判断はなぜ、かくも異なったものになったのか?次ページでは、日本板硝子が撤退案を断念した経緯と、財務的理由を解き明かしていく。