自衛官候補生は待機場所に整列すると渡された銃の最終チェックをする。弾丸や弾倉はその時点では配布されてない。そして、射座で射撃姿勢、つまり、「寝撃ち」「中間姿勢(膝立てもしくは片膝立て)」などの姿勢を取ったとき、弾薬入りの弾倉を渡され、装填できる。このように、すべて統制された管理下で弾薬受領、弾込めをするルールが引き継がれてきた。

 さらに銃と弾倉と弾丸がそろう射座では、射撃指導隊員が1人(射撃係)と薬きょう拾い係(最低1人)に囲まれる。不審な行動があれば、即座に2人がかりで制圧可能だ。このルールが維持されていれば、おそらく今回のような事件が起こることはなかったはずだ。

 後方でも安全係、救護員、射撃指揮官たちが全体の安全管理と運用をしているが、彼らは待機場所を常に警戒して注視しているわけではない。待機場所付近には銃のチェックをするわずかな交付係しかいない。待機場所の監視者は数人に1人の割合で立ち、待機中のおのおのの隊員と離れた場所にいる。異常な行動を発見するのが遅れ、止めるのも難しかったであろう。

 いずれにせよ、従来通りの徹底した銃・弾倉・弾丸の交付という安全管理を行っていれば、突発的な凶行を防ぐことができたはずだ。

自衛隊救急車はどこに?
応急処置体制の不備

 また、射撃訓練に応急処置用の準備がなかったことも問題だ。

 事件直後に「AEDを借りてこい」と自衛隊員が叫んでいる姿がニュースでも報じられた。AEDどころか、緊急搬送用の担架すら現場にはなく、戸板で被害者を運んだ。事件発生が午前9時8分で、救急車で病院に搬送されたのが9時53分。つまり、事件発生から病院への搬送に45分もかかっている。

 死傷した3人の自衛官が勤務していた第10師団も、有事に備えて緊急時に自衛隊救急車を所持している。

 だが、第10師団隊員の傷病に備える目的で設置された自衛隊岐阜病院は、既に2022年に病院としての機能を廃止され、診療所に格下げされ、今回の事件のような銃傷に対処不能とされた。自衛隊は自衛隊救急車だけではなく、射撃場にでも展開できる自衛隊手術車も所持している。ところが、手術に必要な笑気ガスを揃える予算がないために、宝の持ち腐れとなっている。