また、1月16日には板橋区高島平警察署のトイレでも巡査部長が拳銃による自殺している。そして、5月5日には首相官邸守衛所のトイレで25歳の機動隊員が拳銃自殺した。拳銃の不正使用事件が今年に入り、立て続けに発生しているのだ。3月24日には、成城署で実弾入りの拳銃の銃口を向けて、警官が警官を脅した事案も起きている。
なぜこうした事例が相次ぐのか。警察関係者はよれば、適正人材の確保が難しくなったことが背景にあるという。徹底した安全管理には多くの人員と手間(工数)がかかる。自衛隊のみならず、警察も人材不足は深刻であり、安全管理の面倒な手順を簡略化しなければとても対処できない。
自衛隊や警察などの公安職は、日本では銃を合法的に所持できる限られた職種だ。だからこそ、銃の管理は徹底して厳格に行われてきたはずだ。にもかかわらず、警察と自衛隊という治安維持をつかさどる機関で「銃」使用の犯罪が多発するのは異常な事態だ。
少し前までは警察も採用者への風評を聞き込みするくらいの身辺調査をしていたが、現在は個人情報の取り扱いが変わった。さらに少子化で採用の倍率も下がり、適性人材の確保が難しくなっている。
今年度の自衛官候補生採用数は定員の5割を切るほど落ち込んだ。人数を確保するためには、問題ある候補生をふるいに掛けたくとも、限界がある。報酬や待遇の改善などで応募数を増やす努力をしなければ、人材の質は低下し、今回のような事件がさらに増える可能性もあるだろう。
自衛隊では1984年2月27日山口駐屯地射撃場において、訓練中の自衛隊員が同僚に向けて小銃を乱射した事件があった。この事例では1人が死亡、3人が重軽傷を負った。この39年前の犯人は小銃を持ったまま逃走し、翌日、山口市内で身柄を拘束された。
事件が風化するとともに、銃火器の取り扱い意識が低下していったのではないかと感じる。弾薬を奪って逃げようとした今回の犯人は射撃場内で取り押さえられたが、もし逃走が成功していたら、さらに犠牲者が増えていた可能性もある。事件で亡くなられた隊員にお悔やみを申し上げるとともに、二度とこのような事件が起きないよう対策と改善を強く求めたいと思う。
(国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表 小笠原理恵)