11×11~19×19を一瞬で暗算できる「おみやげ算」。刊行から半年で48万部を突破した『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』は、小学生の計算力強化はもちろん、「いつの間にか暗算ができなくなった」と危機感を覚えている大人たちの脳トレとしても役立つと好評です。読者からは「子どもが自発的に勉強している」「あっという間に暗算が得意になった」と賞賛の声がやみません。
今回は、本書制作の裏話について、担当編集・吉田瑞希さんに話を聞きました。(構成/根本隼)
「おみやげ算」の斬新さに惹かれた
――書籍編集の仕事について5年目の吉田さんですが、「学習参考書」を手がけるのは初めてですよね。この本の企画のきっかけを教えてください。
吉田瑞希(以下、吉田) 2022年4月に、人気のプロ算数講師である小杉拓也先生から「19×19まで暗算できる『おみやげ算』の企画はいかがですか」とお声がけいただいたのが、そもそものはじまりです。
私自身、大人になってから暗算をする機会がほとんどなくなり、ちょっとした計算でもスマホの電卓機能に頼っていたので、うしろめたい気持ちがもともとあったんです。
なので、小杉先生に「おみやげ算」の具体的なメソッドを教えてもらったときには、自分の力だけであっという間に暗算ができるようになり、驚くとともに爽快感がありました。
「この方法なら、誰でも簡単に楽しく暗算できるようになる」と確信したので、絶対に世に出したいと思い、迷いなく企画に着手しました。
ベストセラーは「あえて見ない」
――初めて挑戦する「学習参考書」ということで、特に心がけた点はありますか?
(ダイヤモンド社書籍編集局第1編集部)
担当書籍は『「繊細さん」の幸せリスト』、『すごい左利き』、『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』、『すごい言語化』など
吉田 編集者にもさまざまなタイプの人がいますが、私は「ベストセラーはあえて見ない」派です。ベストセラー本の装丁やタイトルを一度見ると、どうしてもそれを意識してしまい、アイディアの可能性が狭まると思うからです。
なので、私は過去のベストセラーをリサーチするかわりに、かつて書店営業部にいた経験を生かして、都内の大型書店や教育熱が高い東京・世田谷の書店の学習参考書売り場を見て回りました。
そうやって陳列状況を観察した結果、ふと気づいたポイントがありました。それは、小学校から高校までの各科目の参考書やドリルがところ狭しと並ぶ学参売り場では、横幅をとる「平積み」のスペースがビジネス書と比べると少なく、発売直後の新刊でも背表紙しか見えない「棚差し」になるケースが多いということです。
しかも今回の企画は、小学校の算数のなかでも、「19×19までの暗算」というニッチな内容です。「棚差しになる可能性が高い」と思いました。
であれば、手に取ってもらえるかどうかは「タイトルの良し悪し」しだいです。タイトルは、一語一語にまでこだわろうと決めました。
子どもの直感を大事にした
――書店に直接足を運んだことで、ほかに発見はありましたか?
吉田 表紙のデザインを決めるうえでキーポイントになった出来事がありました。
私が学参売り場の陳列を見ていたら、近くにいた小学生ぐらいの男の子が棚から1冊を取り出して、表紙を指差しながら「これ面白そうだから買って!」とお母さんに言ったんです。すると、そのお母さんは何のためらいもなく「即買い」していました。
私はその現場を目撃して、子どもの自発的な「買ってほしい」アピールが親の心に刺さるということ、そして「楽しそう」「面白そう」と直感的に思えるデザインの表紙が子どもの心を動かすということを実感しました。
なので、表紙を決める際には、親戚の子どもたちに意見を聞き、全員が「楽しそう」と言ってくれたのがいまの表紙です。
タイトルが大事なのはもちろんですが、タイトルに惹かれて本を手に取った子どもが次に目にするのは表紙です。子どもたちの率直な意見を取り入れた表紙も、ヒットの要因になったと考えています。