「私はなぜこんなに生きづらいんだろう」「なぜあの人はあんなことを言うのだろう」。自分と他人の心について知りたいと思うことはないだろうか。そんな人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。精神科医で禅僧の川野泰周氏も「著者のチョン・ドオンさんのような分析家の先生だったら、誰でも話を聞いてほしいだろうなと思います」と語る。読者に寄り添い、あたかも実際に精神分析を受けているかのように、自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊。今回は川野氏に「疲れた心との向き合いかた」について聞いた。

【精神科医が教える】「いつも無理をしてしまう人」に共通する心のクセとは?Photo: Adobe Stock

週末になると、ぐったりしてしまうのはなぜ?

──​休みの日になると、仕事疲れを癒すために寝て過ごしているだけ、という人も多いようです。どうしてこんなに疲れてしまうんでしょう?

川野泰周(以下、川野):それは日常的に無理をしすぎているのかもしれませんね。

疲れがたまりやすい、ちょっと無理をしているという自覚がある人は「セルフブランディング」に課題がある可能性もあります。

──​「セルフブランディング」ですか。

川野:はい。「セルフブランディング」とは簡単に言うと、「自分自身をこういう人」だと意味づけすること。

本来は、「自分の魅力」を多くの人に知ってもらうための「自分のブランド化」という意味合いで使われることが多いようです。

たとえば、ある主婦の方が自分のつくる料理に自信があり、「私はこの料理をつくるのがとても得意なので、ご興味がある方にはレシピを教えます」とSNSで発信していたとします。

そして、実際にその料理の作り方を学びたいと思っていた人から連絡が来るようになった。

これは、セルフブランディングによって自らの魅力や強みが周知された結果、彼女の能力を必要とする人とのポジティブなご縁が生まれたと言えます。

ところが時としてそんな「自分のブランド」によって自ら苦しんでしまうこともあるのです。

この主婦のようにレシピを発信している方の場合、最初は楽しく発信していても、「常に新しいレシピを発信しなければ」と自分で自分を追いつめてしまうこともあります。

──​たしかに、周りから見えている良いイメージを崩したくない、ということもありそうです。

川野:はい。会社員の方の場合だと「上から圧倒的に支持されて、仕事が完璧にこなせる人」というセルフブランディングをしている人をよく見かけます。

たしかにこのブランディングによって、上司や同僚から絶対的な信頼を置かれ、周囲から羨望の眼差しを集めているのかもしれません。

しかしそれが本人の意思によって構築されたブランドイメージではなく、周囲が勝手に作り出した虚像であった場合、本人はそうした「人物イメージ」に束縛され、苦しんでいる可能性もあります。

これでは本来の意味の「セルフブランディング」とは言えないわけです。

他にも、「優秀な人」「頼めばすぐにやってくれる人」「誰にでも優しい人」など、本人は意図せず周囲から「見えている面」だけをもとに作られたイメージは、当の本人を苦しめていることが少なくないのです。

──​なるほど。周りからのイメージに合わせてしまって、本人が自分らしく生きられていないということですね。

川野:そうなんです。

人間なので、心身ともに充実して高いパフォーマンスを発揮できるときもあれば、プライベートでショックなことがあって、とても仕事に集中できるような心理状態ではないときもあるはずです。

それなのに、どんなに自分のコンディションが悪いときでも今の仕事量を維持しようと無理してがんばり続けると、どうなるでしょうか?

周囲の人たちはおそらく、「あの人はいつもこの量をこなせているな。だったらもっとお願いしても大丈夫だろう」とより要求の水準を高くしてくるでしょう。