「死にたい」若者が
トー横に集まる理由
モカさんのような複雑な背景を持つ若者だけでなく、傍目には両親との関係も良好で問題の少ない環境で育ったように見える若者も、最近はトー横に増えていると話す青柳氏。一体、Z世代の若者たちは「トー横」の何に引かれ、集まるのか。
「ひとつは単純に目立てるから、だと思います。昔だったら若者がヤンキー文化に憧れて爆音でバイクを乗り回していたような現象と同じ。トー横に行けば注目されるんじゃないかと期待する若者の自己表現の場になっているんじゃないかなと思います」
その一方で、トー横がモカさんのようなネオホームレスにとって、大切な「居場所」として機能している面もあるという。
「モカさんは『悩みは死ねないこと』だと言っていました。だから僕は『死にたくないからここにいるのか』と聞いたんですけど、モカさんは『全然違う。死ねないから、ここに来るしかない。いる場所もないし、やることもないから』と答えたんです。『死にたいけど死ねない』という若者にとって、別に場所はどこでもよかったと思うんですけど、たまたま同じ思いを抱いた若者同士で集まりやすかったのが歌舞伎町であり、トー横だったのかもしれない」
未来に何の希望も抱けない若者が行き着いた「トー横」。立ちんぼ女性の売春が社会問題化している大久保公園と目と鼻の先にあるこの場所で、確かに若者は一つの集団を形成している。だが、「仲間」「友人」という単純な関係が築かれているわけでもないようだ。
「モカさんが消息を絶った後もトー横の子たちにはインタビューを続けたのですが、不思議なことに、誰も『モカさんのことを知らない』というんです。インタビュー動画にモザイクはかけていますが、かなり特徴的な見た目をしているので、知っている人が見れば、すぐに分かるはず。5年以上もトー横にいたモカさんを『誰も知らない』というのが不思議で仕方ないんです」
「目立ちたい」という承認欲求と、「ここに来る以外特にやることもない」という諦めのようなものを持って集まり、ホームレスとなったトー横キッズたち。その関係性は、想像以上に希薄なものなのかもしれない。