「ホームレスとして生きるZ世代の若者たちを取材していると、年配のホームレスとは異質な印象を受けます。帰ろうと思えば帰れる実家はあるのに戻ろうとしない少女。裕福な家庭に生まれて、アルバイトで毎月ある程度の収入を得ながら歌舞伎町に通う少年。『ホームレスは?』という問いに対し、『お金がない』『家がない』『頼れる人がいない』といった、おおよそ想像し得る分かりやすい答えが何一つ当てはまらない彼らは、いわばネオホームレスとも呼べる存在かもしれない」
数々のホームレスやZ世代の若者たちの取材を重ねてきたという青柳氏。その中で特に印象的だったのは、歌舞伎町で生活する「トー横キッズ」モカさん(仮名)のエピソードだ。
「歌舞伎町のいわゆる『トー横』と呼ばれる場所で出会ったモカさんは、僕が声をかけたとき、まだ15歳で、2年くらい家に帰っていませんでした。パパ活で月60万円ほど稼ぎながら、ネットカフェやホテルを転々として暮らしていたのです」
ホストの兄を追って10歳で初めて歌舞伎町を訪れたというモカさんは、そのまま歌舞伎町に通うようになったという。「中学生」「トー横キッズ」「家出少女」「パパ活」…。さまざまな背景が絡んだモカさんの動画は注目を集め、500万回以上再生された。
「複雑な家庭環境で育ったモカさんは、両親はいるものの、どちらとも血がつながっておらず、毎日虐待されていて、さらに実の父親には性的虐待を受けた過去もありました。驚いたのは、彼女がその話を、まるで父親と遊園地に行った記憶を思い出すかのように淡々と話してくれたことです。『普通ではないけど、これがお父さんからの愛情なんだと思った』というモカさんのこれまでを思うと、衝撃で言葉が出ませんでした」
このインタビューを機に、モカさんと定期的に連絡を取り合うようになったという青柳さん。しかし、それから数カ月後、トー横で「一斉補導」があった直後にモカさんの連絡が途絶えてしまった。
「急にモカさん本人のLINEアカウントで、モカさんの『兄』を名乗る人物から『モカは自殺しました』と連絡が来たんです。そこから連絡が取れなくなり、彼女の消息は不明のまま。ただ僕は、彼女はどこかで生きていると信じています。ここからは僕の勝手な推測ですが、モカさんのインタビュー動画がバズったこともあり、彼女はなんとなくトー横にいづらくなってしまい、僕とのやりとりも急に面倒くさくなってしまったんじゃないかと思うんです。だったらもう死んだことにすれば連絡も絶てる、と考えたのではないかと。どこかで、そうであってほしい、と願っています」
「トー横キッズ」などという言葉が生まれ、カルチャーが流行したのはここ数年の話。その前からトー横に出入りしていたモカさんは、いわば「古株」だが、彼女は周囲の目を気にしてできるだけ目立たないように行動していたという。
「若者はマウントを取る、取られるに敏感なので、古株だからイキがっていると思われたくない、という思いがあったようです。最近はSNSでトー横の動画が人気になり、トー横キッズに憧れる『新規』の子も多く、家庭環境に特別問題がない子や食べるご飯や帰る家がある子の中にも『死にたい』という子が増えた、とモカさんは話していました」