何かを提案をした時、こんな言葉を言われたことはないだろうか?
「なんか、普通だね」「他の商品・サービスと何が違うの?」「この会社でやる意味ある?」
などなど。サービスや商品、仕組みなど、新しい何かをつくろうとするとき、誰もが一度は投げかけられる言葉だろう。
そんな悩めるビジネスパーソンにおすすめなのが、細田高広氏の著作『コンセプトの教科書』。本書には、
「教科書の名にふさわしい本!」
「何度も読み返したい」
「考え方がクリアになった」

といった読者の声がたくさん寄せられている。
この連載では、グローバル企業、注目のスタートアップ、ヒット商品、そして行列ができるお店をつくってきた世界的クリエイティブ・ディレクターの細田氏が、コンセプトメイキングの発想法や表現法などを解説する。新しいものをつくるとき、役立つヒントが必ず見つかるはずだ。

【新築時の2.5倍?】中古マンションの価値を一気に高めた「魔法の言葉」とは?Photo: Adobe Stock

古くなるほど価値が出るものがある

 2023年の6月末現在。東京都心の中古マンションは高騰しています。首都圏の多くのエリアで新築時と価格が逆転する現象が見られ、中には価値が2.5倍になる物件もあるとのこと。もちろんこれは海外の投資家の影響も大きいでしょう。

 しかし、国内で最初に中古マンションの価値が認められるようになったきっかけは、ある言葉にありました

 それが「ヴィンテージ・マンション」というコンセプトです。

 この言葉が「古くなるほど価格が下がる」という不動産の常識をひっくり返し「古くなるほど価格が上がる」現象を生み出したのです。

 デニムや食器や家具など、中古とは反対に時間とともに価値が上がるものはヴィンテージやアンティークといった言葉が使われていますよね。もちろんすべてのマンションがヴィンテージになれるわけではありませんが、立地や広さや工法や素材、さまざまな面で質が高く時に負けないものを中古と分けて新しいラベルをつくったことで、マーケットに新しいルールが生まれました。

 言葉が価値をつくることを如実に示す事例ではないでしょうか。

ひっくり返して価値を見つける反転法

 ヴィンテージマンションのように、常識的な考え方をひっくり返して、新しい常識を記述するコンセプトづくりの方法を「反転法」と呼びます。一般的には良いとされている考え方でさえも反転させ、日陰に隠れていた新しい価値に光を当てるために用いるのです。

大きく見せる ←→ 小さく見せる

 ワコールが2010年4月に発売した「小さく見せるブラ」はその好例でしょう。

 当時、ブラジャーのマーケットでは、ほとんどのブランドが胸を寄せて上げる機能を競い合っていました。実際に市場調査をしても9割以上が「胸を大きく見せたい」と答えていたようです。

 しかしワコールは残り1割に注目してブラジャーを開発。結果、これがヒット商品となりました。

 バストサイズの大きめな女性たちの中には「洋服を着たときのシルエットをスッキリ見せたい」とか「シャツのボタンの隙間が気になる」といった隠れた本音があったのです。

 小さく見せるブラは単なる逆張り商品で終わらず、常識に抑圧されていた女性たちを解放したと言えるでしょう。

 2000年にディオール オムのクリエイティブディレクターに招聘されたエディ・スリマンは、「男を小さく見せるスーツ」をデザインしました。

 男性のスーツと言えば肩パッドを入れるなど大きく立派に見せるのが常識でしたから、当然、賛否両論を呼ぶことになります。

 しかし、「男らしさ」を疑う姿勢はジェンダーの価値観が多様化する時代に徐々に受け入れられ、その後のスキニーパンツブームなど大きなトレンドの源流ともなったのです。

必要とする人←→ 必要としない人

 誰がなんのために使う商品か。商品の根本的な常識をひっくり返してしまった事例もあります。

 日本で視力矯正が必要な人はおよそ6000万人。これだけのボリュームがあるならばメガネを必要とする人々のためにメガネをつくるのが普通です。しかしジンズ(JINS)は残り半分に目をつけました。

 開発コンセプトは「目のいい人のメガネ」。ここからスマホやPCなどのデジタルディスプレイが発するブルーライトを軽減するJINS PCが生まれました。目のいい人がメガネを好んで使用するという非常識は、いまや日常となっています。

 業界や商品やサービスの「常識」を書き出してみましょう。ひとつひとつの常識をひっくり返し、そこに新しい価値を見つけられないか検討してみてください。

 このほかにも、『コンセプトの教科書』では、発想法から表現法まで、コンセプトづくりを超具体的に解説しています。