IFA=証券リテール営業の新たな担い手

 これは、言い得て妙なほどに、金融ビジネスのいまの病巣をえぐり出した表現と評していい。

 近年、金融庁は「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)」を打ち出し、その和訳である「顧客本位の業務」を提唱していた。そんな概念的なニュアンスより、彼ら二人の言う「顧客が主語となって、顧客が選ぶ」のほうが、圧倒的にわかりやすくてリアリティがある。逆にいうと、

「証券会社が顧客を選び、顧客に何を買わせるか」
「顧客をどう誘導し投資させるのか」

 という発想に未だ固執し続けているのが、証券業界の生々しい現実ということになる。

 自社の事業計画に基づいて営業計画が策定され、それを達成すべく、本部から営業店、そして、営業店から個々の営業担当者へと「営業目標」が課されている。多くの場合、月次単位で細分化され、さらには週次、日次の営業成績が集計されて、最終ゴールまでのラップレコードの順位付けで営業担当者の尻叩きが行われる。

 同じ金融ジャンルの中でも、とりわけ証券ビジネスでは厳しいノルマが業界風土のように定着していて、根性や人情をフル活用した、浪花節的なセールス活動を展開してきた。上司は「なんとか、顧客にはめてこい」と檄を飛ばし、担当者は「今日は何人の顧客に売り込みました」という表層的な会話が職場に充満する。確かに、そこには顧客を主語とする会話はない。「顧客」は「を」「に」が後につく目的語と化している。

 そのような営業スタイルからの脱却を目指して模索する動きは、これまでまったくないわけではなかった。かの二人が在籍した野村證券も、前時代的な営業姿勢を改めようとしてきた一社である。実際、平均的に見れば、かつてほど顧客無視のセールスはひどくない。「問題を引き起こすようなセールスは厳禁」というルールを掲げる証券会社も現れてきていた。

 だが、その一方で、株式の委託手数料、投信の募集・販売手数料で構成される営業目標は厳然として設定されている。その達成へのプレッシャーは、上司のチェックから始まり、人事評価にまで及んでいる。結局、顧客無視、軽視のセールスは会社が命じたわけではなく、あくまでも「営業社員が勝手にやり過ぎたことである」という体裁へと変わっただけに過ぎず、その内実はまったく変わらない。いわゆる「押し売りセールス」「お願いセールス」「おべっかセールス」であり、顧客からの不平、不満、苦情を誘発しやすいという意味では、以前と同様のままなのである。