そもそも、こうした努力は時代の変化を先取りするものではない。典型的な後追いパターンであり、結果として時代の変化とのギャップを埋めることはできず、むしろ広がり続けていた。

 だからこそ、営業現場の優秀な若手社員ほど、こうした事態に対して疑問を抱き、不信感を募らせた。それに拍車を掛けたのが、金融商品取引法上に規定されている金融商品仲介業、英語だとIFA(Independent Financial Adviser=独立系ファイナンシャル・アドバイザー)という、証券リテール営業の新たな担い手の存在である。

米国ではIFA=巨大証券会社の社員に比肩する存在

 IFAについてはここでは簡単な説明で済ませるが、証券会社には属さず、自分の考え方に基づいて顧客(個人投資家)に資産形成のアドバイスを行う一方、提携する証券会社から業務委託手数料を得る職業のことである。いうなれば、平、松岡の両氏が表現した「顧客が主語になる」可能性を秘めたビジネスモデル、と解釈してもらってかまわない。

 組織のあり方に疑問を抱く多くの優秀な営業社員がIFAへの関心を高めるにつれ、IFAに転職する動きが強まった。IFAこそ、「優秀な社員が辞表を提出」という新たなパターンを証券業界にもたらしたともいえる。現に野村證券でも平氏と同様、海外修練生に選出・体験した若手社員の中から、退社してIFAに転ずる人たちが現れている。

 証券分野の専門家であれば、いまや、米国ではIFAが巨大証券会社に所属する社員と比肩する存在になっていることを知っている。そして、わが国でもIFAはこの10年間、先駆的な人たちの努力によって、少しずつではあるが徐々に知名度を上げてきた。この5年ほどの間、良質なサービスを提供する一部のすぐれたIFAたちの努力が実りつつあることもまちがいない。

 だが、株式投資にあまり関心のない人には、「IFAって何?」と首を傾げる向きのほうが圧倒的に多い。依然としてその社会的な位置は「どこの馬の骨かもわからない新参者」というレベルから抜け切れていない。

 おまけに、わが国では「ビッグネームの巨大企業のほうが信用できる」という高度経済成長期の残滓のような観念が根強く残っている。巨大な看板を店先に掲げる「カンバン効果」はやや弱まってきたとはいえ、それでも未だ「カンバンの大きさが知名度の高さ」であり、それを「信用力」と誤解している人が多い。「ウチのカンバンに傷がつく」などと古典的な発想を曲解しながら捨てきれずにいる、証券会社の経営者もまた多く存在している。