「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】ケトン食の有効性が、特に期待できるがんとは?Photo: Adobe Stock

ケトン食だけで、
悪化しない可能性のあるがんもある

 現在、ケトン食を応用したがんの治療は、抗がん剤による化学療法や放射線治療と組み合わせる形で行っています。場合によっては、IVR(Interventional Radiology)というX線透視やCTなどの画像で体の中を見ながらカテーテルや針を使う治療と併用されています。

 けれども、がんの種類によっては、もしかしたら、ケトン食だけで悪化しない可能性のあるがんもあるのです。

 どんな種類のがんかといえば、「肉腫」と呼ばれるがんになります。

 肉腫(サルコーマ)とは、全身の骨や軟部組織(筋肉、脂肪、神経など)から発生する悪性の骨軟部腫瘍を意味します。骨の肉腫の代表的なものとして、骨肉腫、軟骨肉腫、軟部組織の肉腫の代表的なものとして、脂肪肉腫などがあります。

 肉腫の特徴は、発生頻度が低く、分類が多様なことにあります。がん全体に占める肉腫の割合は約1%に過ぎません。

 しかし、一般的な肉腫の印象としては、若い人に見られて、助かるために脚などを切断する手術をしないといけないという非常に怖い病気です。

 それが、ケトン食によって特に効果が出るのであれば、多くの患者さんにとっての朗報となる可能性があります。現在までに、研究に参加した肉腫の患者さんは3人です。

 1人の方は、40代の男性で左肩甲骨軟骨肉腫の患者さんで、残念ながら十分にケトン食を実施できず、お亡くなりになりました。

 他の2人は、全く抗がん剤治療などを併用せず、ケトン食だけで長期延命しています。1人は軟骨肉腫の80代の男性。もう1人は腹壁脂肪肉腫の40代の女性です。

 80代の男性の場合は、右大腿骨の付け根あたりに元々の肉腫があり、ケトン食を導入し、半年を過ぎたときに、転移をした肺の部位を切除しました。いわゆるがん治療として実施したのは、それくらいで、がんは消えていません。

 しかし、その80代の男性は、ご家族に大切にされながら5年を過ぎても(2022年12月現在)、とてもお元気に過ごされています。さすがに、長くケトン食を続けているので、何度もそろそろやめてもいいかなとお話しされますが、結局は継続されています。

がんケトン食を導入したことで、
がん再発のスピードが明らかに遅くなった

 もう1人の40代の女性は、とても大変な治療経過を乗り越えてきた患者さんでした。腹壁脂肪肉腫を患い、10年間で12回の手術をしてこられました。

 多い時は1年に2回もの手術を受けて、「病院が家のようになっていた」と、患者さんは笑いながらお話しされていました。これだけ大変な思いをされているのに、なぜか明るいのです。

 興味深いことに、その患者さんががんケトン食を導入したことで、再発のスピードが明らかに遅くなりました。5年間フォローしていますが、再発は1年に1回以上のペースですから、今までなら、5~6回は再発していたはずなのにわずか3回に減少したのです。

 1回目はケトン食を始めて半年くらいの時でした。その1年後に14回目の再発。その後、血中総ケトン体濃度を数千μmol/L台まで維持し、2年半再発がありませんでした。

 しかし、長い期間再発がなかったので、「完全にケトン食がゆるんでしまったから」と、ご本人がお話しされたように、血中の総ケトン体濃度が1000μmol/L前後まで低下しており、15回目の再発がありました。それからは、がんケトン食療法を改めて厳しく行い、血中総ケトン体濃度が、数千μmol/L台まで回復し、現在は経過順調です。

 肉腫におけるがんケトン食療法の効果については、肉腫の専門家のさらなる検討が必要でしょうが、これが有効ということになれば、新たな治療の選択肢が増えることになります。

 肉腫における治療は、一部の抗がん剤を除き、現在では、手術で「切る」という選択しかありません。そんな厳しい治療を受けても、再発するリスクがあるのです。再発するリスクを、がんケトン食が低下させるのであれば、患者さんは、そのつらい決断を前向きにとらえることができるように思います。

 私は、治療において患者さんのレジリエンス(回復力)を重視しています。詳細は、前著『漢方がみちびく心と体のレジリエンス(回復力)』に譲りますが、レジリエンスを導くためには、つらい病気の治療と向き合う必要があります。

 患者さんたちが、病気と向き合っていくときに、がんケトン食療法は、患者さんのレジリエンスを導く存在だと思っています。

(※本稿は『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』の一部を抜粋・編集したものです)

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売に。