ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官 Photo:picture alliance/gettyimages

キッシンジャー元米国務長官を
中国側は異例の厚遇

 先週、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が中国を訪問した。迷走する米中関係、激動の国際情勢の行方を占う上で重要な動向である。キッシンジャーは、7月18日に李尚福国防相兼国務委員と、19日に王毅政治局委員兼中央外事工作委員会弁公室主任と、そして20日に習近平国家主席と立て続けに会談した。中国国内では、中国側として異例の厚遇で同氏の訪中をもてなしたという総括がなされている。

「キッシンジャー博士は100歳になられたばかりで(筆者注:キッシンジャーの誕生日は5月27日)あり、あなたは中国を100回以上訪問している。この2つの100を足してみると、あなたの今回の訪中には特別な意義があるように思う」

 習近平はキッシンジャーにこのように呼び掛けた。中国側は、習近平・キッシンジャー会談の場所を、釣魚台迎賓館5号楼にセッティングしたが、この建物は、キッシンジャーがニクソンの“密使”として初めて訪中した52年前の7月、同氏が当時の周恩来首相と会談を行った場所である。習近平はその点を強調し、キッシンジャーも謝意を示していた。

 習近平は米中が国交正常化を実現する上で、キッシンジャーが果たした役割に敬意を表し、「我々は古い友人を決して忘れない」「米中関係は永遠にキッシンジャーという名前とつながり続ける」といった言葉を発信することで、米中が国交正常化(1979年1月1日)をまたいで歩んだ道のりがいかに困難に満ちており、それを大切にする必要があるという点を強調したかったのだろう。

 言い換えれば、バイデン政権に対して「先人を見習え」という観点から警告したかったということであろう。歴史を持ち出しつつ、現状に不満を表す、過去の為政者に敬意を表しつつ、現在の為政者に圧力をかける。中国外交の常套手段である。

 会談後、習近平はキッシンジャーを昼食会に誘ったが、同氏の100歳の誕生日を盛大に祝い、米中の友好を演出しようという意図が如実に表れていた。