写真:マンジャロ

今年に入り3月、7月とイーライリリーの糖尿病治療薬が相次いで出荷調整となり、医療現場が困惑している。当該の「マンジャロ」は、糖尿病薬としてではなく、最終の臨床試験で「20%超の体重減少」を示したことが注目されていたことから、「“やせ薬”として自由診療クリニックが買い占めているのではないか」とうわさされている。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

イーライリリーの糖尿病薬
発売後1カ月で出荷調整に

 米国の製薬大手イーライリリーの日本法人、日本イーライリリーは、想定外の需要増が続いているとして、7月18日から2型糖尿病治療薬「マンジャロ」(一般名:チルゼパチド)の限定出荷を開始すると医療機関向けに通達した。

 マンジャロは用量別に6規格ある。まず今年4月に2.5mg、5mgの低用量2規格が、2カ月後の6月に低用量では効果が見られなかった患者を適応とした7.5mg、10mg、12.5mg、15mgの4規格が発売となっており、今回限定出荷となったのは後者の高用量4規格。健康保険制度や診療報酬について審議する厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)の資料ではピーク時の売り上げ予想は約350億円以上で、大型化が見込まれてはいたものの、まさか発売後わずか1カ月での出荷調整となった。

 実は需要増を理由としたイーライリリーの糖尿病薬の出荷調整は、3月から限定出荷が継続している「トルリシティ(一般名:デュラグルチド)」に続き、今年に入って2剤目である。

 今回の通達について、大阪府内で調剤薬局を営む薬剤師の稲田伸一氏は「トルリシティが入ってくる見込みが立たず、マンジャロなどへの切り替えが順次進んでいた矢先だった」と困惑する。

 もっとも医療現場では、相次ぐ糖尿病薬不足を「案の定」と捉える向きもある。

糖尿病薬を“やせ薬”として
処方する医療機関が急増

 昨今、自由診療界隈で糖尿病薬を“やせ薬”として処方する医療機関が急増しており、糖尿病治療の現場では「自由診療における需要増で、本来必要な糖尿病患者に薬が行き渡らなくなるのでは」という懸念が高まっていた。

 トルリシティとマンジャロは「GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)受容体作用薬」というタイプの薬剤で食欲を抑える作用があり、その結果として体重を減らす効果を持つ。そのため、かねて美容クリニックを中心に、GLP-1受容体作用薬を“やせ薬”として、糖尿病ではない患者に処方する医療機関が増加しているのだ。

 ここ数年、糖尿病薬を販売する各メーカーや日本糖尿病学会は医療機関へ適応外使用を控えるように注意喚起してきたが、馬耳東風。相変わらずインターネットやSNSには「メディカルダイエット」と称して糖尿病薬を喧伝する医療機関があふれている。

 今回のマンジャロの限定出荷に対し、日本イーライリリーは「日本における適応外使用を含むマンジャロの使用状況については、4月の発売以降継続的にモニターしておりますが、現時点で目立った適応外使用の増加などは確認されていない」としている。これに対し、糖尿病の治療に携わる医師や薬剤師は首をかしげる。