脱毛症治療薬で最もよく効くのはどれか。カナダ・トロント大学の研究者がその疑問に答える論文を昨年発表した。ただ、毛髪治療の第一人者として国内で治療に携わる医師は、論文のランキングで下位になった薬を高く評価した。自ら作成に携わった診療ガイドラインで「非推奨」に位置付けたにもかかわらずだ。特集『選ばれるクスリ』(全36回)の#3では、男性型脱毛症(AGA)治療の最前線で見いだす“本当に効く薬”を追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
海外論文が有効性を順位付け
1位は「デュタステリド内服0.5mg」
男性型脱毛症(AGA)の主要な治療薬にはフィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルの3種類がある(下表参照)。具体的な製品としては、フィナステリドは「プロペシア」、デュタステリドは「ザガーロ」、ミノキシジルは市販外用薬の「リアップ」などが有名だ。
ではこの3種類のうち、男性のAGA治療で最も効果が高いのはどれか。それを調べる研究結果が2022年に発表された。
カナダ・トロント大学の研究者たちがネットワークメタ分析で臨床試験23件のデータから3種類の相対的な有効性を比較し、順位付けしたものだ(研究結果の論文は「Relative Efficacy of Minoxidil and the 5-α Reductase Inhibitors in Androgenetic Alopecia Treatment of Male Patients: A Network Meta-analysis」。「JAMA Dermatology」2022年3月発行号に掲載)。
この研究結果によると、治療開始24週間後の総毛髪数の変化において最も有効性が高いのは「デュタステリド内服薬 0.5mg/日」だった(次ページのランキング表参照)。
治療現場の最前線に目を向けると、毛髪治療の第一人者である東京メモリアルクリニック理事長の佐藤明男医師がエビデンスと経験で導き出した、現時点における「最強の処方」(佐藤医師)は、「フィナステリド内服薬 3.5mg/日」と「ミノキシジル内服薬 5mg/日」の併用療法である。
「ミノキシジル内服薬 5mg/日」は論文中の順位付けではトップ10から漏れている。しかも、日本皮膚科学会が作成した「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」で、ミノキシジル内服薬は推奨度D。つまり「行うべきではない」治療となっている。
佐藤医師はこのガイドラインの作成委員会の委員。にもかかわらず、ミノキシジル内服薬を処方している。
次ページでは、有効性ランキングの詳細と共に、佐藤医師がミノキシジル内服薬を処方する理由を明らかにする。