3499ドル(約50万円)という価格で注目を集めたApple初のゴーグル型端末「Vision Pro」。発表から一カ月もたたないうちに、今度は『Financial Times』が同社の初年度台数の減産予想を報じました。しかし、株価は依然として高値圏にあり、時価総額は3兆円を超えています(2023年6月時点)。いったいなぜなのでしょうか? 新規事業で役立つ「MFTフレーム」を用いて解説します。(グロービス ファカルティ本部テクノベートFGナレッジリーダー 八尾麻理)
「Apple Vision Pro」の発表に既視感
“iPhoneを発明した”あの日と同じ?
「既にすごい日なんだけど、まだもう一つあるんだ!」――6月5日、Appleの年次開発者会議「WWDC23」で、基調講演の最後に登壇したティム・クック氏がそう語ると、スクリーンにゴーグル型の「Apple Vision Pro」が現れました。
「かねてよりAR(拡張現実:Augmented Reality)の奥深さに並々ならぬ関心を寄せていた」と同氏は語り、「デジタルコンテンツと現実世界を融合することで今までに見たこともない体験の扉を開く。全く新しいARプラットフォームと革新的な製品だ」と高らかに宣言しました。それは、かつてスティーブ・ジョブズが“iPhoneを発明した”と語ったあの日のようです。
端末だけを見ると「メタバース」で先行するMetaやマイクロソフトと比較されてもおかしくない状況のはず。にもかかわらず、試作品を試した人がまだ少ない「Apple Vision Pro」がこれほどまでに多くの関心を集めるのはなぜなのでしょうか。
ここでは、技術と市場のギャップを埋める「MFTフレーム」を用いて、後発であるAppleならではの戦略を見てみましょう。