ECB(欧州中央銀行)は7月の理事会で0.25%の利上げを実施した。9会合連続の利上げだ。米国に比べれば水準は高いものの、インフレ率もピークアウトしつつある。利上げ効果の浸透で成長率も低下しているが、今後もインフレ退治優先で政策金利は24年前半まで利下げ転換はないだろう。(第一生命経済研究所 主席エコノミスト 田中 理)
インフレファイターの血はまだ流れていた
開始は遅れたが1年で4.25%の利上げ
地上184メートル、43階建てのECB(欧州中央銀行)の本店は、ドイツの金融都市フランクフルトの中心街から少し離れたマイン川沿いの卸売市場の跡地に建っている。かつては中央駅近くのビルを間借りしていたが、2015年に現在のビルに移転した。
ECBの本店はなぜフランクフルトにあるのか。もちろん、同市はユーロ圏を代表する金融都市(欧州最大の金融都市ロンドンはユーロ圏にない)だが、東西ドイツ統一と引き換えにドイツマルクを放棄したドイツが、新たな通貨の番人の所在地を他国に譲らなかったとの逸話もある。
ECBの政策は、総裁、副総裁、理事の役員6人に、20カ国の中銀総裁を加えた26人の多数決で決まる。加盟国の増加に伴い15年に輪番制を開始し、6人の役員は毎回必ず投票権を持つが、各国中銀総裁は15人が交代で投票する。
表向きはユーロ圏全体の中期的な物価動向に基づいて金融政策運営を判断すると説明しているが、実際には各国中銀総裁の投票行動は自国の経済動向に引きずられやすい。南欧諸国の中銀総裁の多くがハト派で、北部欧州諸国の中銀総裁の多くがタカ派であることが、その現実を物語っている。
26人の理事会メンバーは、年に8回、本店の最上階にある理事会専用のミーティングルームの円卓に集まり、金融政策に関する決定を下す。20カ国の寄り合い所帯のユーロ圏では、加盟国間の景気サイクルや物価を取り巻く環境がバラバラで、金融政策を一元的に行うのは困難を伴う。
加盟国間の利害が衝突する議論は時に白熱し、意見集約に時間がかかるため、他の先進国中銀に比べて政策決定が遅れがちといわれてきた。今回の利上げ局面でもECBの初動は遅れ、利上げを開始したのは豪英米中銀から半年余りも遅れた昨年7月だった。
だが、その後の利上げペースはすさまじい。0.25%の利上げをした今年7月までの1年間の利上げ幅は実に425ベーシスポイント(4.25%ポイント)に達する。利上げ開始前にマイナス圏にあった下限の政策金利(預金ファシリティー金利)は3.75%に引き上げられ、1999年のECB発足以来で最も高い水準にある。
ECBを率いるラガルド総裁は、「高すぎるインフレ率が長く続きすぎている」ことを利上げが必要になった背景として説明している。
ECBを創設するに当たっては、「インフレファイター」として知られたドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)をモデルにしたとされる。未曽有の物価上昇に直面し、弁護士出身のフランス人が率いる今も、「インフレファイター」の末裔としての本領を発揮している。