──その分、対応が遅れるわけですね。

五味 はい。その点弊社は、金型製作と射出成形を同じ場所、しかも東京都内で行っているので、クライアントの方にお越しいただき、その場で何度もやり直しながら金型製作や射出成形を行えます。

──小ロットだとコストを抑えて作るのが難しいのでは?

五味 コストダウンのノウハウも蓄積してきました。例えばプラスチックは、米粒ぐらいのプラスチック材料に色の粒を混ぜて作るのですが、これだと小ロットの製品を作るには多すぎます。そこで弊社では、色に関して粒よりも小さな粉を使って着色しています。色ムラが出やすく難しいのですが、それができるのが弊社の強みです。

 金型に関しても中国製と比べるとコストは高いのですが、やり直しや射出成形時のトラブルが少ないので、トータルで見ると決して高くないと思います。

──そうした強みが支持されたのですね。

五味 今では取引先の若い方が上司に「五味彫刻で教えてもらってきて」と言われるようで、足を運んでは「どうやって設計したらいいの?」と弊社の技術者にあれこれ尋ねています。

──最近新たに取り組んでいることは?

五味 今回のコロナ禍でわかったのは、いろいろな業務を手がけることの重要性。そこで新たに、弊社の技術を使ってプラスチック製のオリジナル商品を作っています。その一つが「マスクインナー」です。マスクの中に装着することで空間をつくり呼吸をしやすくするもので、類似品が市販されていますが、弊社では独自素材を使って軽く柔らかい着け心地の商品を作り出しました。

 また社長がアーティストの知人が多いことから、コンサートグッズとしてモーテルキータグやギターピックなどの商品を作っています。こちらも短納期・小ロットで、弊社が得意とするところです。

──既に販売もされているのですか?

五味 コンサートグッズは製品化されていますが、まだまだ注文は少ないので、近年は展示会に出展するようになりました。足立区が立ち上げた「足立ブランド」の認定事業者となってその展示会に出ていますし、足立成和信用金庫さんから教えてもらった信用金庫の共同ビジネスマッチング会にも参加しました。

名だたる大手メーカーやテーマパークの製品を手がける、社員7人の町工場オリジナル商品の「マスクインナー」。空間ができて、呼吸しやすい
●有限会社五味彫刻工業所 事業内容/プラスチック用金型製作と射出成形、部品加工など、従業員数/7人、所在地/東京都足立区青井2‐14‐16、電話/03‐3880‐7037、URL/gcm53.com

 足立成和信金さんとは創業以来の付き合いで、日頃から融資を受けたり経営のアドバイスを受けたり、とお世話になっています。ビジネスマッチングの機会も頂き、非常に助かっています。

──今後の抱負を教えてください。

五味 実は、SDGsに関するオリジナル商品も開発していまして、プラスチックに食品を混ぜるなどの研究をしているのですが、すぐ壊れるようでは捨てられてしまい、逆に環境破壊を助長してしまいます。簡単には捨てられないものをどう作るか。それを模索していきます。

(取材・文/杉山直隆、「しんきん経営情報」2023年9月号掲載)